【SS】椿は香らない
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1 名前:カレル[age] 投稿日:2023/04/21 19:56:27 ID:XX.h5y3blX
こんにちは、カレルと申すものです
これで節目となる20作目ですね。
こちらは「きららファンタジア」と「あんハピ♪」の二次創作になります

今回はリアルの都合により、話を小出しにして投稿します。また、投稿間隔も不定期になると思います。話の構想自体はできているので失踪はしません。ですので、気が向いたときにでもご覧ください。
更新した際は『SSを宣伝するスレ』にて宣伝させていただきます。(pixivでも同じ内容を投稿する予定)

話の区切りは「☆☆☆」のマークを付けるのでわかりやすいと思います。

注意事項
*キャラクターの独自解釈
*独自設定
*原作との乖離
*妄想
*オリジナルキャラクター
等が含まれるので苦手な方は注意してください

『SSを宣伝するスレ』
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=1662&ukey=0
『カレル-pixiv』
https://www.pixiv.net/users/80083511

< 12
2 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/04/21 19:56:52 ID:XX.h5y3blX
【椿は香らない】

[ジンジャーの屋敷]

どこまでも澄んだ空が続く朝方。
椿はこそこそと屋敷の廊下を一人歩いていた。
ちょうど通り過ぎた扉がゆっくりと開き「おう、椿 出かけるのか?」と、聞き覚えのある声が後ろからした。
椿はすぐに振り返り声の主の方を見た。
番長を思わせるような外套と帽子、ブロンドの髪に獅子を思わせる耳と尻尾が生えている女性が廊下の中央で仁王立ちをしている。
「じ、ジンジャー!?」椿はジンジャーを認識すると驚きで後方に飛びのいた。
「わっはっは! いきなり声をかけてすまなかったな、こんな時間に椿が外に出ているのが珍しくてな」とジンジャーは豪快に笑いながら言った。

3 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/04/21 19:57:23 ID:XX.h5y3blX
「う、うん…」
椿はジンジャーの豪快さに戸惑いながらも、「町の図書館に行く」と伝えた。
「ああ、チモシーがいるみたいだし…、メイドを同行させなくてもいいか」とジンジャーは椿が抱いているチモシーをチラリと見ながら言った。
「うん、あの時は何も言わずに行ってごめんね」
「いいや、椿が無事ならいいのに大騒ぎしたのは私の落ち度だからな。私も椿を信じ切れなかったところがあるから、笑顔で送り出すぞ!」とジンジャーはどこから取り出したのか、ジンジャーの専用武器の“釘バット”を肩に担いで言った。
「ジンジャー、どこからバットが出てきたの?」
「わはは! まっ!そんなことはいいから玄関まで送っていくぞ」
「うん… ありがとう」
「そうだ、前におまえが会ったやつのことを、詳しく聞いていいか?」
「あ、うん… そんなこと気にするなんて…ジンジャー珍しいね…」
「まぁ、椿が世話になっているみたいだし、知っておきたくてな… 話したくないなら、別に話さなくてもいいが…」
「うん…じゃあ… 後で、でいいかな… まだ、はっきりと言える自信もないし」
「おう、椿が話してくれるのを待っているぜ!」とジンジャーは笑顔で言った。
「うん…」

4 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/04/21 19:57:44 ID:XX.h5y3blX

「ジンジャー、行ってくるね」
「おう、暗くなる前に帰って来いよ」とジンジャーは言った後に「どこの馬の骨だ…」とバットをきつく握りしめながら小さくつぶやいた。

椿はその言葉には気づかないままジンジャーの屋敷から出て、街の図書館に向かった。

☆☆☆

5 名前:カレル[age] 投稿日:2023/04/29 20:29:44 ID:S8HEhMg93x
<“起動”アクティベーション、チモシー>

図書館の前に来た椿は茂みに体を隠し携帯型端末「スマホ」を通しチモシーを起動した。
―起動は問題なし 不慣れな操作と動き出しに少しラグがあるが許容範囲、ただ改良要検討!― とノートに書きだしていく。その表紙にはサインペンで「チモシー」と大きく書かれており、その横にはかわいらしい手書きのチモシーのイラストが添えられている。

別のページには多くの改良案やアイデアが出され、ノートに踊るようにペンが進んでいく。
途中から鼻歌も交じり、夢中になって書き込んでいく。
改良点やアイデアを粗方書き終わり、「ふぅ… こんなものかな」と小さくため息をつき、ノートをチモシーの背中にしまった

6 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/04/29 20:30:04 ID:S8HEhMg93x
次に端末の映像を確認しながらチモシーを動かした。操作方法は従来のキーボードタイプではなく、仮想パッドになっており操作がぎこちないが、慣れるまでと割り切って運動テストを開始した。
『うん、カメラの操作は問題なし… 伸縮性アームも動かせる… ほとんどキーボードと違いはないかな ただ複雑なコマンドでの呼び出しは流石にキーボードに劣るから、音声認識に切り替えを…』とチモシーの操作をキーボード向けからスマホ向けに調整していく。

7 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/04/29 20:30:29 ID:S8HEhMg93x
「チモシー、“透明”インビジブル・モード」

椿はスマホに内蔵されたマイクに囁くと、瞬く間にチモシーの姿が背景に溶け込み見えなくなった。
『チモシーの新機能の透明化は問題なく作動しているね 動いてもチモシーの周囲の景色が揺らがないし、次はこの状態で高速移動をしてみようかな』
仮想パッドの移動スティックをニュートラルの状態に戻し、目一杯押し込んだ。すると、チモシーがいるらしき場所の景色が歪み、その歪みが地面から壁、屋根へと移動していく姿が確認できた。

8 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/04/29 20:30:48 ID:S8HEhMg93x
『う〜ん… 高速移動だと微弱な魔力でも抵抗が大きくなって透明化が不完全になっちゃうのか これをどうにかして改善できれば…』と椿はチモシーを自動操縦に切り替え、高速で動く歪みとにらめっこしながら考えていた。しかし、その解決法の糸口がまだつかめないので、「チモシー、“帰還”リターン&“透明”インビジブル」と端末に命令を送ると、椿のすぐ隣に透明化を解除したチモシーが出現した。

9 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/04/29 20:31:17 ID:S8HEhMg93x
―「透明モード」は人が歩く程度(2.9km/h)では知覚をすることができないが、準高速移動(70km/h)では魔力(別の要因も)の抵抗が大きくなり、人が知覚できるほどの状態になってしまう。そのため魔力の影響を受けにくくする機構か、バリアを使った保護装置などを組み込めば解決する可能性があるが、今の段階でノウハウもなく現段階では机上の空論としておく。
また、魔力の問題は場所によって魔力の濃度が極端にことなる地域もあるため、魔力の量を視覚的にわかりやすくする装置の開発を誰かに依頼したい(カンナが望ましい、また噂で聞いた“発明家”という人物も)。その際にはジンジャーの協力を仰ぐことにする。
ただ、今のままの状態でも速度を出さなければ不可視の状態は維持されるため、優先度は低いものとする。―とノートに書き記し、またチモシーの背中に戻した。

10 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/04/29 20:31:39 ID:S8HEhMg93x
「よしっ!」
椿は気合いを入れスマホを持ち直すと、「チモシー、“透明”インビジブル・モード」ともう一度命令し、透明化したチモシーを図書館に向かわせた。その時の椿の表情はいたずらをする前の子供のように輝いていた。

11 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/04/29 20:31:59 ID:S8HEhMg93x
図書館の前に着いたチモシーは慎重に周りを見渡して、人通りを確認した。いくら透明になっているとはいえ、無茶な動きをすれば違和感が生まれてしまうことは先の実験でわかっているので、念には念を入れる。
周りに人がいないことをしっかりと確認すると、満を持して図書館に足を踏み入れた。
図書館の正面玄関は解放されており、正面には受付が設置されている。今回は以前のように無人ではなく、図書館の館長である女性が何やら書類とにらめっこをしている。
チモシーその横を難なく通り抜け、目的地である大小様々な書架が立ち並ぶ吹き抜けに到着した。

12 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/04/29 20:32:47 ID:S8HEhMg93x
椿は緊張していた。
[あのときから、…1週間、みっちりシュミレーションしてきたんだ…うまくいくはず…]と無意識に唱えながらスマホを強く握りしめた。
端末の映像からは、様々なジャンルの本が所狭しと並べられている本棚が映されているが、目的は本ではないのでチモシーのカメラを読書机に向けた。
『あれ? いないのかな… この時間は確かにいるはずなんだけどな…』
椿は誰も居ない机の群れを横目に見ながら、端末の画面から別のタブを呼び出し、そこにある“図書館”と名前の付けられた動画ファイルを選択した。その動画のサムネイルは図書館の吹き抜けから見下ろすようなアングルで机群を映しており、そこを利用する人々が映っている。

13 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/04/29 20:33:16 ID:S8HEhMg93x
その動画から目的の時間を指定すると、可変倍速モードに設定し再生した。
図書館を利用する人々は様々であるが、言の葉の樹の下の街ということもあってか、身なりのグレードが高い人々が多い。他にも神殿関係者を表す“十字の紋章”を付けた人達もここに出入りしているようだった。また、昼過ぎには子どもたちの集団が聖典を読みにきている様子も観察できる。そんな様子が目まぐるしく変化していき、室内には明かりがつき、すぐに明かりが消され暗くなった。そんな様子が1分程度で過ぎ去り、目的の時間になったようで再生速度が等倍になった。
『うん、3日前はこの時間…』と確認を終えると、時間を一気に加速させ、『一昨日も同じ時間…』更に加速させ『昨日も同じ時間』と間違いがないことを確認し動画を閉じた。

14 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/04/29 20:34:03 ID:S8HEhMg93x

「…ボクの読みが完全に外れた…」
「へ〜、そうなんだ ツバキちゃん、読みってなぁに?」
「うん… カメリアにスムーズに話しかけるきっかけにでもなれば、って思ったんだけ……ど……えっ!?」

椿が振り返ると、金髪碧眼の少女が満足そうな表情で立っていた。


https://kirarabbs.com/upl/1682768043-1.png


15 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/04/29 20:34:35 ID:S8HEhMg93x
「か、カメリア!? いつから…」
「いつから… う〜ん、えっと…ツバキちゃんがなんか悪いこと企んでいるような顔をしていたときかな ねっ!驚いた?」とキラキラと光る笑顔を椿に向けている。この笑顔を見ていると、今まで悩んでいたことがバカバカしく感じてくる。
「う…うん! 一本取られちゃったよ」
「やったー!」
「でも! カメリア、いきなり声をかけるのはやめてね ボク、びっくりして心臓が止まっちゃうかもだし…」
「えっ!? ツバキちゃんってそんなに虚弱なの…」と、今度は心配そうな表情に変わった
「…」

「……」

16 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/04/29 20:35:43 ID:S8HEhMg93x
「冗談だよ ボクはそんなことじゃなんともならないよ」
「な〜んだ!」と今度は安心した表情へと変化していく。
『カメリアには悪いけど、ちょっと面白いかも でも、虚弱をネタに使ってしまって、久米川さんごめんなさい…』
「ねえ、ツバキちゃん 一週間待ってもらってごめんね なんかティラミスちゃんが恥ずかしがったりして、ツバキちゃんと会う準備ができないっていうもんだからねっ!」
「うん、だいじょうぶだよ ボクも色々準備する期間があってよかったし」
「そう!よかったぁ… ここで立ち話もなんだし、暗い部屋に行こうよ、ティラミスちゃんがそこでしか会えないからね さっ!」とカメリアは手を差し出した。
「…うん」
椿は照れながらもカメリアの手を取ると彼女に促されるままに図書館に入った。

☆☆☆

17 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2023/04/29 22:03:19 ID:RfqBwf52G/
女同士、密室、暗い部屋。何も起きないはずがなく…

じゃなくて、いつかの話の続きですね。オリジナル設定を少しずつ出していくスタイルは、長期的計画的でないとできないのでその点もすごいと思います。

18 名前:カレル[age] 投稿日:2023/04/30 20:56:51 ID:rbbJh0Ioaa
コメントありがとうございます!

たしかに暗い場所と言うのは隠微な雰囲気がありますからね。ただ何が起きるかは次回のお楽しみということにしておきます。
幸いGWに入ったので、近いうちに更新ができると思います。

19 名前:カレル[age] 投稿日:2023/05/03 20:20:32 ID:Iuz5FVwzmC
暗く静まり返った書架の間に、2人の可憐な少女が手を繋いで歩いていた。彼女たちコツコツという足音は本の隙間に吸収され、不気味さも一層際立っていた。
少女はこの薄暗いなかを、花が咲き乱れる野原を歩くような調子で歩いている。また、もうひとりの少女は周りを見渡しながら警戒して歩いている。

20 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/03 20:21:03 ID:Iuz5FVwzmC
「ねぇ、ツバキちゃん 暗いとこって苦手?」
「えっ…? なんで…」
「ツバキちゃんの手が震えてるからね、だいじょうぶもうすぐつくよ」と本棚の角を指さしながら言った
「うん、でもカメリアはこんな暗いのに見えるなんてすごいよね」
「ううん、まったく見えないよ 場所を覚えてるから記憶を頼りに進んでいるだけだよ それにツバキちゃんと一緒にいるからなんだか楽しいの」
「ふっ…はは 何それ」
「あっ、ツバキちゃんが元気になった」
「…ありがと」
椿はそう言うとカメリアの手を握り返した。もうその手は震えていない。

21 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/03 20:21:32 ID:Iuz5FVwzmC
「とうちゃーく!」と勢いよく言い立ち止まった。
「ここ?」
周りを見渡しながら椿は疑問をあらわにした。
到着した場所は他の地点となにも変わらない場所だった。暗い中、目を凝らして眺めていると、一部分だけ本棚がなく石造りの壁がむき出しになっているところがあるのが気になった。
「ツバキちゃん、ちょっとまっててね」
カメリアはそう言うと、先ほど目を付けた壁に迷うことなく向かっていった。
『壁に衝突する!』そう考えた刹那、彼女の体は壁に吸い込まれ見えなくなってしまった。
椿はその様子に驚愕したが壁の奥から、「ツバキちゃん、こっちにきて」とカメリアの声が聞こえてきたので、これがゲームでよくある“隠し扉”であると理解し、驚きよりもワクワク感の方が大きくなった。

22 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/03 20:21:55 ID:Iuz5FVwzmC
椿は壁に向かって歩き始めた。近づいてみても何の変哲もない石の壁、意を決してそれに手を伸ばして触ってみた。
「ん…ムニュってしてる」と偽の壁を触れながらつぶやいた。
硬くもなくやわらかすぎなくもない、絶妙な感触だった。例えるならばおもちゃの“スクイーズ”のようだと椿は思った。
椿は壁に手を突っ込んでにぎにぎと楽しんでいたが、「もう!ツバキちゃん 来てよ」としびれを切らしたカメリアに手を掴まれて引き込まれることになり、全身でそのモニュっとした感触を味わった。

23 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/03 20:23:10 ID:Iuz5FVwzmC
偽の壁を通った先は小さな個室だった。
周りを本棚に囲まれ、中央には机が置かれている。カメリアはその机を前にして何やら準備をしている。
「カメリア、この部屋って何なの?」
「ん? ああ、ここ? ここはね、先生が図書館のひとに内緒で作っちゃった場所だよ だから、秘密だよ」とカメリアは人差し指を顔の前に出して“静かに”のハンドサインをした。
「わかったけど… なんでこの場所なの、ティラミスちゃん(?)が暗いところしか出ることが出来ないならさっきの場所でも良かったんじゃ…」
「う〜ん ティラミスちゃんはね、とーってもッ!恥ずかしがりやでね こんな感じの個室じゃないと安心できないんだ」
「そうなんだ」
「そうそう、じゃあ いくね」
カメリアはそう言うと目を閉じて謎の言語をつぶやき始めた。

24 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/03 20:23:43 ID:Iuz5FVwzmC
「――――――――〜〜〜〜〜*****」と言葉の意味は分からないが、普段の彼女の柔らかい雰囲気とは違い張り詰めるような緊張感がり、言葉自体になにか力があるように聞こえた。
しばらくカメリアの様子を見ていると彼女の体が光りはじめていることに気づき目を逸らした。しかし、闇の中に慣れた瞳では光を必要以上に取り込んでしまい、強烈な衝撃でよろめいてしまった。
「####!!!〜〜〜〜!!!====!!!
カメリアの謎の言葉を聞きながら、椿は瞼を閉じ彼女が放出している光を背中で受け目を慣れさせた。ここまでくる道はかなり冷えていたが、拡散する光が暖かく背中を温めている。
ある程度光に慣れたので振り向くと、カメリアから出ていた光が細長い蛇のような生物の形になっていった。
「$%#」


https://kirarabbs.com/upl/1683113023-1.jpg


25 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/03 20:24:41 ID:Iuz5FVwzmC
最後に謎の言語で叫んだ後カメリアは、「よ〜し おわりっ!」と額の汗を拭きながらいつもの調子に戻っていた。

「…カメリア、さっきのは何だったの?」
「えっとね、説明すると長くなるから簡潔に言うけど、これかティラミスちゃんを顕現させる儀式みたいなものだよ まぁ、厳密にいえば違うんだけど、これでツバキちゃんもティラミスちゃんと直接お話できるよ」とカメリアは“光の蛇”の顔辺りを撫でながら言った。
「…」
「話しかけてみて、ティラミスちゃん ツバキちゃんと話すために人間語の勉強を頑張ったんだよね〜」
「そ…そのための一週間だったんだね わ…わかった…ボクも頑張ってみる…」と光の蛇を横目で見ながら言った。

26 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/03 20:25:10 ID:Iuz5FVwzmC
椿は大きく息を吸い、“光の蛇”ことティラミスに向き直った。これは学校でクラスのみんなの前に初めて立った時と似ていると思った。あの時はうまく自分のことを伝えられなくて逃げるのみだった。そんな不甲斐ない自分はいなくなっているはず。

「あ、あの… ボ、ボクは……うっ……さ、さ…っ……さや…ま…っ……。」
椿は自分の声が震えていることに気づいた。
カメリアとの交流で、錯覚していたが自分が人見知りであること失念していた。
いままでは彼女の押しの強さに翻弄されて気づいていなかったが、今日もジンジャーに少し人見知りをしてしまっていることを思い出した。
ティラミスとは完全に初対面であること。言葉が通じるかもわからないことへの恐怖心が大きく占めていることも作用し、これ以上口が開かなくなった。

27 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/03 20:25:34 ID:Iuz5FVwzmC
これはティラミスも同様のようで、何か声を発しようとする仕草は確認できるがカメリアの方をチラチラと見て、“助けて”と合図を送っているようにも見える。

「ありゃりゃ、ティラミスちゃん ツバキちゃんがせっかく話しかけてくれたのに、恥ずかしがってないでね」とティラミスの頭の部分を撫でてなだめている。
すると、ティラミスから「&%$%」と先ほどカメリアが発していた音と似た音が聞こえてきた。

28 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/03 20:25:56 ID:Iuz5FVwzmC
「うんうん、もう しょうがないな〜 “私がついてるから心配ないよ ツバキちゃんもとってもいい子だし ほら、あなたの言葉で伝えて”」と母性に満ちた優しい口調で言った。

この言葉を受けて、しばらくティラミスはカメリアに絡みついたり、後ろに隠れたりなどしてモジモジしていたが決心がついたようで、彼女の体を離れ椿の前に躍り出た。

29 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/03 20:26:46 ID:Iuz5FVwzmC
一方、椿もティラミスの様子を見て、昔のことを思い出していた。
ずっと人を避けていた時に優しく接してくれた友達、「花小泉杏」、「雲雀丘瑠璃」、「久米川牡丹」の三人のことが浮かんできた。
『ボクもそんな人たちのようになりたい』
そんな想いを抱えてティラミスをまっすぐ見すえた。
「ぼ、ボクは…んっ! さ、狭山…椿です! よろしくお願いします! え、えっと…あなたの名前は?」

椿は自己紹介を言い終わり、大きな達成感を感じていた。
いわばあの頃のリベンジと言うべき場面で、ちゃんとやり切ることができたことは大きな糧になるはずだと小さな喜びをかみしめた。

30 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/03 20:27:17 ID:Iuz5FVwzmC

椿に自己紹介を促されたティラミスは何かを考えているのか上昇と下降を繰り返していた。その最中一際発光が大きくなり、体の動きも大きくなっていた。
そんなことを数分に渡って繰り返していたが、突如動きを停止したどたどしいながらも言葉が聞こえてきた。
「ワ…ワタシ…ハ ティ…、ティ…ラ み…、みりゅ…… “#$」とカタコトの言葉が聞こえてきたかと思ったら、また謎の言語が聞こえ、ティラミスの尻尾あたりの部位がカメリアの手にきつく巻き付いた。

「…!?」
巻き着かれたカメリアは一瞬、苦悶の表情をしたが、「うん…うん!いいよ ティラミスちゃん ゆ〜っくり落ち着いて、しっかりと言えば伝わるから」と痛みを我慢し、ティラミスの尻尾を握り返しながら声をかけている。

31 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/03 20:27:45 ID:Iuz5FVwzmC
その声にティラミスは落ち着いたようでスルスルと拘束が解かれた。

「ワ、ワタシ…ハ ティ…ラ ミ…ルルっ……ス…デス」と時間をかけて言い終わると満足したのかティラミスは姿を消してしまった。

「う〜ん ティラミスちゃんは一歩前進かな? 疲れて眠っちゃったし、今日はもう起きないね」とカメリアは右手をさすりながら言った。
「ねぇ、右手大丈夫?」
「ん? 別に何ともないよ」
「ちょっと、見せてみて!」と強引に腕をつかみながら言った。

32 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/03 20:29:14 ID:Iuz5FVwzmC
カメリアは少し抵抗したが、痛みに耐えられないようで観念し、右手を差し出した。
それを見た椿は、「ひどい…」と思わずつぶやいてしまった。

カメリアの右手はティラミスが巻き着いた場所の皮が破けて出血しており、皮膚が破れていないところも内出血しており赤黒く染まっている。

「…もう、こんなの余裕だよ ははっ…ティラミスちゃんは私の弟なんだからかわいいもんだよ たまにそういうことがあるからね…」
「ちょっとまってて、チモシー!回復」とポケットからスマホを取り出し、チモシーに命令をした。
「…ごめんね、心配かけちゃって」
「もう、黙ってて! 今から治すから」
椿はそう言うと、出血を濡れたハンカチで拭い、包帯を巻いた。その後にチモシーの腕を傷に重ね、魔法を詠唱した。詠唱が始まると、優しい緑の光がチモシーの腕からほとばしり、ハーブの良い匂いもした。

33 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/03 20:30:11 ID:Iuz5FVwzmC
するとカメリアは険しい表情もほぐれ、動かせるようになるまでに回復した。
「うわー! すごいね、痛みがもう全然ないよ!」と治癒をかけられた右手を握ったり閉じたりしている。
「応急的な処置だから 激しく動かしちゃうと傷が開いちゃうよ」
「うん! ありがとうね ツバキちゃん」
「う…うん」
椿は不甲斐なさを感じていた。
『久米川さんであれば、ちゃんと治せるのかな』と思わずにはいられない。傷を完全に治すことのできず痛みが残っているはずなのに、彼女の屈託のない笑顔がまぶしすぎて、目を逸らしてしまった。

「ねえ! ツバキちゃん 街でお買い物しない?」
「ふぇ…」
椿はカメリアの突然の誘いに驚き変な声を出してしまった。
「あははっ! 行こうよ!」と左手を差し出した。
椿は顔が真っ赤になりながらも、「もう、カメリアのバカ」というと彼女の手を取った。
カメリアは、「じゃあ、いこー!」と勢いよく隠し部屋を飛び出し、このムニュっとした感触をもう一度味わい、街に向かった。
彼女の笑顔は変わらず輝いていた。

☆☆☆

34 名前:カレル[age] 投稿日:2023/05/13 12:32:23 ID:xuZUtihX/m
「あっ、そうだ」
「えっ…どうしたの?」
「こんな格好じゃ、街中を歩けないよ… ちょっと10分くらい待っててね」
カメリアは突然そう言うと壁の付近にうずくまって「う〜ん」と急に唸り声を上げ始めた。
そのあまりに突然の様子に隠し部屋の光景を重ね、疑問を口に出すことも忘れ、ただその成り行きを見ていた。しばらくカメリアが唸っていると空中から何か小さな光るものが出現した。
『今度はなに!?』と今度はカメリアの傷を思い出し、怯えながら見ていると、それはどんどんと大きくなり、幾何学模様が描かれた円陣にまで成長し、それが魔方陣であるとわかるまでに大きくなった。
「これって…」
椿はこの光景に近いものを見たことを思い出した。
それはチモシーのテストのために神殿に行った時のこと。

35 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/13 12:33:14 ID:xuZUtihX/m
***

「アルシーヴ 実験に協力してクレテありがとう」

「いいや、クリエメイトの要望にはできるだけ叶えるとのソラ様の要請だからな、感謝されるほどのことではない」

「……でも、本当にありがとう…ございます… アルシーヴさん」

「……ま、まぁ 言葉だけは貰っておこうか」

「ごほん! サーテ、帰るカナっ! 遅くなったらジンジャーも心配しチャウと思うし」テクテク

「チモシー、待ってくれ 私が送っていこうか?」

「ン? 別にだいじょうぶだよ ボクひとりでも、暗いけどゆっくり行けば問題ないから」

「ま、まぁ…なんだ、わざわざ神殿に出向いてもらったんだ、安全に送り届けるのが礼儀というものだろう」

36 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/13 12:33:42 ID:xuZUtihX/m

「…それも、そうだね ジャア、お願いするヨ それにしても神殿の人じゃなくてアルシーヴ自らなんてVIP待遇だね」

「ああそうだな、チモシー では、私の傍に来てくれるか」

「ウン? ボクを持ち上げるの? でもボクって見た目に似合わず結構重いからアルシーヴの筋力じゃ無理じゃないカナ」

「そんなことはしない“転送呪文”」

「うっ!ぐっ…」

***

その後は、アルシーヴさんが一瞬で作り出した魔方陣の光に包まれて、気づいたらジンジャーの屋敷の前にいて、彼女と一言二言話して別れた。
その時に見た魔方陣にそっくりな見た目をしているので思い出してしまった。

37 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/13 12:34:02 ID:xuZUtihX/m
椿は視線をカメリアの方に戻し確認したが、彼女の上に浮かんでいる魔方陣は以前見た転移陣と似ているが大きさや模様が少し異なっていた。
その転移陣が大きくなったかと思うと、こんどは頭上に移り、カメリアごと包んで消えてしまった。

「突然すぎるよ…」とひとり取り残された椿は呟くとその場所から逃げるように近くにある茂みに腰を下ろした。だんだんと人の往来が出てきた通りには、荷車などの往来も激しくなり町の活気が出てき始めていた。

38 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/13 12:34:26 ID:xuZUtihX/m
椿はその光景を茂みから眺めながら不思議とワクワクしている自分がいることに気づいた。何かから逃れるためではなく、明確に待つために茂みに隠れることは椿には新鮮だった。しかし、この場から離れても良かったのかという不安が少しあった。もし、知らぬうちに戻ってきてしまったら、もう二度と会えないような予感に身震いをし、カメリアと別れた場所に行こうと重い腰を上げた。

椿が茂みから飛び出そうとする瞬間「おっ、またせー!」とはつらつとした声が後ろから聞こえた。
椿はホッとした表情を隠すことなく「もう…いきなりいなくなるなんて、ひどいよ」と言いながら振り返った

39 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/13 12:35:46 ID:xuZUtihX/m
「えへへ、ごめんね でも、一緒に歩くんだからツバキちゃんに恥はかかせられないからね、どうかな? 先生にもらったんだ〜、制服なんだって♪」と跳ねるように一回転して着替えてきた服を見せた。
肩まで伸びていたロングヘアーがポニーテールになっており、尻尾もスカートの隙間からちょこんと出て、もう一つのポニーテールと言うべき様相を呈している。その二つの尻尾が太陽の光を受けて一層華やいでおり、椿は思わず「かわいい」と口に出していた。
「えへへ、ありがとう でもツバキちゃんの方がかわいいよ! 服もお忍びのお姫様みたいだし、ツインの白いカメリアの髪飾りもよく似合ってるし」
「………。 えっと… ありがと……、いくよ」
椿はカメリアに顔を見せないようにそっぽを向くと頬の赤らみに気づかれないようぶっきらぼうに言った。


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40 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/13 12:36:22 ID:xuZUtihX/m
カメリアはその様子にくすりと笑うと、椿の手を握り一緒に歩き出した。
「さっ! ツバキちゃん、待たせた分しっかり楽しませるから覚悟しててね」
「楽しみ…」


椿は人通りの多い道を歩くことを不安に思いつつも、隣の少女のポジティブな思考に少なからず感化されていた。次はどんなことが起こるのかという希望を思い描きながら歩くことは昔の自分では想像もつかないことだった。願わくば隣の少女のことをもっと知りたいと考える椿なのだった。

☆☆☆

41 名前:カレル[age] 投稿日:2023/05/29 19:49:35 ID:7f/maLI3wJ
カメリアに促され、街の繁華街まで来た椿は人混みに圧倒されていた。
後ろを見ても前を見ても途切れることなく人の顔があり、一種のいきもののようだとさえ思うほどだった。この空間では自分はさほど目立つ存在ではないと頭では理解していても、誰かから見られているような居心地の悪さを感じていた。
「ツバキちゃん、大丈夫?」とカメリアは椿の顔を心配そうに覗き込んだ。
「はっ…! いや…だいじょうぶ……」
「もうすぐだよ!あの路地に目的のお店があるから」と勢い良く指差した先には、陰気な路地裏が口を開けていた。その路地の横の壁には“雑貨屋“と書かれた古びた看板が壁に張り付けてあり、その看板の下にはほかにも“激安魔法道具“や“薬効きます“などいかにも路地裏の風景というような怪しさに溢れた売り文句も書いてあった。

42 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 19:51:09 ID:7f/maLI3wJ
「…ねぇ、カメリア…」
「ん? どうしたの」
「えーっと……なんでもない…」
椿は帰ろうと提案をするつもりで口を開いたが、元を正せば自分が以前行きたいと言い出したことであり、彼女の厚意を無下にすると思い言い出せなかった。
「ふーん まっ、ちょっと急ぎでいくからしっかりつかまってて」
カメリアは小さい体ながらも人混みを器用にかき分け、人に当たらないようにエスコートしついには路地裏にたどり着いた。

43 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 19:51:54 ID:7f/maLI3wJ
「ふぅ… 結構大変だったね」とカメリア少し息を弾ませながら言った。
椿はそれに、「うんうん」と首を小さく振って答え、額の汗と涙をハンカチで拭った。
「ツバキちゃん ごめんね、裏路地のことはあまり知らないから大通りから来ることになっちゃって」
「えっと…だいじょうぶ!! だよ… カメリアからカメオを貰ったのにお返しをしないっていうのもダメだと思うし、友達だし対等な関係でいたいから…」と小さく絞り出すように言った。

「そっか… 手、つなご」
それだけ言うと、また椿の手を握って歩き出した。カメリアはそっぽを向いていてその表情は窺うことはできないが、繋がった手のひらのから感じる熱は、椿にはいつもより高く感じられた。

44 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 19:52:43 ID:7f/maLI3wJ
その後路地裏をしばらく歩いていると、ここに入る前に見た看板と同じデザインの立て看板が見えてきた。
「ツバキちゃん、ここが件の雑貨屋だよ」
「ここが…?」
カメリアに紹介された雑貨屋の外観はお世辞にも綺麗とは言えず、また、湿っぽくいたるところに苔やツタの葉が繁茂している。窓もなく外と中を繋ぐ唯一の扉も木の扉で店内が完全にブラックボックスとなっていた。
「そう、先生のお知り合いが経営しているお店でね、質のいい商品がたくさんあるんだよ! それでねそれでね…!」
「ちょ、ちょっと、落ち着いて」
「ハッ…! ゴホン えぇっと…まぁ、すごいいい商品があるということで見ればわかると思うよ…」
「そ、そうなんだ…」
「そ、そうだよっ! じゃいこっ!」と恥ずかしさをごまかすように引っ張り、雑貨屋に入店した。

45 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 19:53:12 ID:7f/maLI3wJ
 入店するとすぐに、「いらっしゃい」と店主らしき落ち着いた声が聞こえてきた。店内も外観からは想像もつかないほど明るく、辺りを見渡すと、アクセサリーや食器などの小物が棚にきれいに陳列されており、
目を丸くして商品をみていると、「どう?なかなかいい場所じゃない」とカメリアが嬉しそうに言った。
「うん、そうだね 外装が不安だったけど悪くないかも」
「そうでしょそうでしょ!他にもいろんな物があるんだよ!」

46 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 19:54:22 ID:7f/maLI3wJ
 カメリアが盛り上がっていると奥から、「カメリア、商品を見てテンションが上がるのはいいけれど、声のボリュームは考えなさい」とさっき聞いた声が聞こえてきた。
それを聞いたカメリアはすぐに口をつぐみ「すみません、デルラさん…」と声が聞こえてきた方向へ最低限聞こえる声で謝った。

「デルラさん? カメリア、店主の人の名前?」と小声でカメリアに聞いた。
「うん、デルラさん 優しい人でね、お母さんみたいな人だよ」
「お母さん、ねぇ まぁ、今はお客さんもいないから良いけれど それでカメリア、あなたが他の子つれてくるなんて初めてだわね」とデルラと呼ばれた人物はそう言いながら椿たちの元へ歩いてきた。

47 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 19:55:00 ID:7f/maLI3wJ
椿はその様子を悟ると、とっさにカメリアの影に隠れ、初対面の人を迎える準備をした。しかし、椿とカメリアには身長差があるため、かなり小さく縮こまった。商品棚の隙間から一瞬見えた背格好からはかなりの高身長に見えたので、無意識に警戒を強めて、デルラの到着を待った。
「カメリアに友達ができたなんて喜ばしことだわ」と言いながら白衣を着た若い女性が棚の角から現れた。
その容姿は黒髪のロングヘアーに天井に手が届くほどの高身長の女性で、佇まいから落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

48 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 19:56:44 ID:7f/maLI3wJ

「こんにちは!デルラさん えっと…私の後ろにいるのが友達のツバキちゃんだよ」と後ろをチラリと見ながら言った。
「こんにちは、カメリア 後ろにいらっしゃる、かわいらしいお嬢さんがカメリアのお友達ですね 私は店の主、デルラ “デルラ・アシレフィルノーア“と申します」と膝を曲げ、微笑んだ。
一方、椿はカメリアの後ろに隠れながら、「ぼ…ボクは、さ…狭山、つ、つ……椿です…」とたどたどしいながらも言い切った。

49 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 19:57:36 ID:7f/maLI3wJ
「ふふっ “ツバキ“ いい名前ね、椿さん」
その言葉を聞いた椿は、以前カメリアに同じようなことを言われたのを思い出した。それは、まだ一週間しかたっていないのに、この言葉が非常に懐かしく光っているように感じた。
「あっ… ありかとう…ございます…」
「ねっ、ツバキちゃん デルラさんはすごーく優しい人だから安心してね…」と未だに離れない椿に苦笑している。
「ごめん…まだ心の準備ができていなくて で、デルラ…さんも……」
「だいじょうぶよ、これは人それぞれだから、無理しなくていいのよ、あと、右に休憩用のスペースがあるから自由に使っていいわよ では、ごゆっくり」と言い残すと白衣を翻し奥へ消えていった。

50 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 19:58:37 ID:7f/maLI3wJ
デルラがいなくなったことを確認すると椿は小さな声で、「はぁ…緊張したぁ」と呟いた。
「どう?椿ちゃん、休憩する」
「えっ…! うーん…そうだね、人混みに疲れちゃったし デルラさんの言うように休憩スペースを使わせてもらおうかな」
「わかった! じゃあ早速いこうよ!」と返事を聞くが早いか椿の手を掴み、瞳を輝かせて件の休憩所に向かった。その様子を見て椿はそこの場所にカメリアが惹かれる特別な物があると直感したが、今までの彼女の向こう見ずな行動を振り返り、嫌な予感を感じていた。
 商品棚を数回ほど越えると、ガラスと扉に仕切られ、机と椅子が数脚ほど並んでいるスペースにたどり着いた。床も壁も木製でオシャレなカフェのような空間となっており、そこに入るのに気後れがする椿だったが、カメリアに手を繋がれているのでは意思とは関係なく、その空間に誘われることになった。

51 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 19:59:09 ID:7f/maLI3wJ
「ここって落ち着くからいいよね」とカメリアは雑貨屋とカフェをつなぐ扉を右手で引こうとしたが、右手が扉に触れる前に引っ込めた。
「カメリア、右手痛む?」
「えっ…! まぁ、ちょっとね…」
「ボクが開けるよ ちょっと下がってて」とカメリアの手を軽く引いて下がらせ、扉の前に立った。
この小さな木の扉は所々に年季を感じさせる傷などがあるがきちんとワックスがけがされているようで、照明を反射して光っている。この扉は椿にはとても大きく重く見えたが後ろにいるカメリアに心配をかけないために素早く手を扉にかけ、一呼吸おくと息を止めて一気に引いた。
しかし、扉はカランと鈴の軽い音が鳴りあっけなく開き、コーヒーの香ばしい香りが先から漂ってきた。その勢いのまま、「いこっ!」と手を引くと香ばしい空間に飛び込んだ。

52 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 19:59:52 ID:7f/maLI3wJ
二人は向かい合った席に座ると、慣れた手つきで机の横からとメニュー表を出すと、椿に渡した。
「ありがとう ねぇ、カメリアは決まってるの?」
カメリアがもう注文が決まっている、というような表情をしていたので興味本意で聞いてみると、「うん、私は季節のケーキと紅茶のセットを頼むよ これがすごい美味しくね、秘密にしたいくらいなんだ」
「へぇ〜ならボクもそれにしようかな」
「あっ、でも結構量が多いからツバキちゃんは別のものを注文して一緒に食べない?」
「いいかも… カメリア、他におすすめってあるの?」
「え〜っとね ちょっとメニュー貸して」
「うん」
メニュー表をカメリアに渡すと、パラパラとページをめくり、椿におすすめするお菓子を探し始めた。

53 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:00:24 ID:7f/maLI3wJ
探している最中は、おすすめを見つけたのか、瞳を輝かせたかと思うと、しかめっ面になったりと表情がどんどんと変化していった。そのカメリアの百面相を見ていた椿だがその様子が面白く、だんだんと堪えきれずついには失笑してしまった。
「ちょっと! ツバキちゃん笑わないでよもう…」
「あはは! ごめんって、ちょっと様子が面白くて」

「…まぁいいけど、なんか…心を開いてくれたみたいで嬉しいし…」と椿に聞こえないように、口の中でもごつかせながら言った。

54 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:01:02 ID:7f/maLI3wJ
「ねぇ、見つかった?」
「あっと…まだ、かな…」
カメリアは照れ隠しで、写真に視線を走らせていたが、突然メニューを翻しあるメニューの写真を指差した。
「どうしたの?」
「これだよ! これこれ」
「えっと、“店長気きまぐれの謎々お菓子(美味しさは保証します)“? これなんかおかしなものが出てくるとかないよね?」
「そうかな?おかしなものでもお菓子だし、面白そうじゃない? それにデルラさんが作るお菓子は天下一品だし試す価値はありありだよっ!」
「だじゃれじゃないけど… ううん…まぁいいや、ホントにおかしなものだったらカメリアが責任とって全部食べればいいわけだし、これにしようかな 飲み物はコーヒーでいいかな」
「りょうかい オーダーは私が伝えるからツバキちゃんはくつろいでていいよ」と言って手元にある呼び鈴を鳴らした。

55 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:01:47 ID:7f/maLI3wJ
すると、すぐに奥から「はーい」と声がしてデルラが注文表を持って出てきた。
「ご注文は決まったかしら」
「はーい!私はケーキと紅茶のセットでツバキちゃんは謎々お菓子とコーヒーをおねがいします」
「謎々お菓子を注文するのね、椿さん」と非常に嬉しそうな調子で言った。
「は…はい」
「デルラさん、そんなに注文ないんですか?この謎々は」
「そうねぇ、最近は注文してくれる人が0だったわね」
「へぇ〜 ツバキちゃん!なら俄然これ選んで正解だったんじゃない?期待が高まっちゃうよ」
「そ、そうだね…」
「じゃあ、復唱するわね、カメリアは季節のケーキと紅茶のセット、椿さんは謎々お菓子とコーヒーでいいかしら?」
「はーい、おねがいしまーす」
「おねがい…します…」
「わかったわ、ちょっと待っててね」

56 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:02:51 ID:7f/maLI3wJ
デルラは注文表に注文を書き上げると、奥へと消えていった。カメリアはその後ろ姿を見送るとすぐに椿に話しかけた。
「ねぇ、ツバキちゃん デルラさんってかっこいいと思わない? いろんな仕事をこなしてるなんて憧れちゃうな」
話題をふられた椿は人見知りをしていてデルラのことをほとんど見ていなかったため、「う、うん…そうだね…」と生返事をするだけに留まった。
カメリアはその様子に気づかず、「ツバキちゃんはどう思う?」と更に質問をした。
「えっと………」

57 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:03:42 ID:7f/maLI3wJ
椿は答えられない話を切るために別の話題をこのときに考えていたが、ここに来る前にカメリアがいっていたことを思い出した。
「…ね、ねぇ デルラさんはカメリアの先生のお知り合いって話だけどその“先生“はどんな人なの?」
「ん?」と急な話題転換にカメリアも一瞬戸惑ったがすぐに、「うーん…と、先生はね、面と向かっては言えないけど、かわいらしいの人でね、でも結構厳しい人だよ 今日は魔物退治に行くって言ったら“死にそうになっても助けないからちゃんと覚悟と準備をして行ってくれ“な〜んて言われちゃってね」と少し嬉しそうに言った。
「うわっ、小平先生より厳しいかも…」

58 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:04:19 ID:7f/maLI3wJ
「コダイラ先生……? ねぇ!コダイラ先生ってツバキちゃんのお師匠様? 教えてよ!」と興奮気味に“先生“というワードに反応し瞳を輝かせると手を握り詰め寄ってきた。
「ちょっと待って!」
「!?」
椿の「ちょっと待って」という言葉に反応したカメリアはしぶしぶ握っていた手を離すと、膝に手をおいて静止した。「待て」という言葉に律儀に待っているが、辛抱たまらんといった表情で見つめている。
その様子に耳と尻尾も相まって“ご飯を待つ犬“を連想したが、友達だとしてもそう考えるのは失礼だと思い、その考えを奥へと押し込むと“待て“の続きを紡ぎ出した。

59 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:04:55 ID:7f/maLI3wJ
「えっと…小平先生はいつも笑顔の人なんだけど…」
「だけど?」
「それがすごく胡散臭くて何考えてるかわからない人なの ……でも、ボクたち生徒思いで…たぶんカメリアと友達になれたのも小平先生のおかげかも…」
「へぇ〜!私と友達になったきっかけの人かぁ…いつかあってみたいなぁ」
「…でも、この世界では会えるかなわからないから…」
「…えっと、言いにくいこと聞いちゃたかな…」
「ううん! 大丈夫だよ、今は遠くに行ってて会えないってだけだから」
「そうなんだ、なら会えることになったら、私もコダイラ先生にお会いしたいな」
「うん、覚えておくよ」
「約束だよ ツバキちゃん」と右手の小指を差し出した。
「約束…うん?」

60 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:05:42 ID:7f/maLI3wJ
椿はカメリアの顔をしげしげと眺めていたが、自らも意を決して同様に小指を差し出した。しばらくは手持ちぶさたのように居場所を求めて中空をうろうろしていたが、ゆっくりとしかし確実に、見えない力によって引き合っていった。
椿は小指だけが触れあいに戸惑っていた。彼女と手をつないでいるときや路地裏で手を繋いだ時よりも、もっと熱く、痺れるような感覚が全身へと流れていた。けれど心地よさもあり、これが“約束”であり、信頼の重さなのだろうと椿には理解できた。
絡み付いた指が離れるときにはお互いの体温により平衡状態に達しており、これ以上は上がらない熱を名残惜しそうに見ていた。
「えへへ… なんか気恥ずかしいね でも!やくそくだからね」
「うん……」

61 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:06:17 ID:7f/maLI3wJ
しばらくはお互いに恥ずかしがって、ソワソワしていたが見計らったようなタイミングで「お待たせしました」とデルラが商品を運んできた。
「はい 紅茶とケーキのセットと謎々お菓子とコーヒーのセットよ ごゆっくり」とデルラはてきぱきと置いていくと、伝票を残してそそくさと立ち去っていった。
「ありがとうございます!デルラさん」
「ありがとう…ございます…」

62 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:06:42 ID:7f/maLI3wJ
「じゃ、早速食べよっか」
「ううん…でもなんか、すごい高級感があるね」と指差したお菓子たちは大きな銀色のフードカバーがかけられていて、その隙間からはドライアイスの白い煙が漏れていた。特に椿のフードカバーには意匠の凝った装飾が施されており、一段階上等に見える。
「これね、デルラさんの雑貨屋の商品にもあるよ、これがあるだけで一気に華やかになるし美味しさも倍増するかな? まぁ、これがなくてもデルラさんの作るお菓子は美味しいけどね それに、コーヒーも豆から挽いたものを出してくれるから美味しいと思うよ、私はコーヒーが苦手だから紅茶にお砂糖を入れて飲むけど…」
「さて…鬼が出るか蛇が出るか…」
「ちょっと、話聞いてる?」
椿はカメリアの長話を無視して蓋を開けた。

63 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:07:28 ID:7f/maLI3wJ
「あっ…うん、聞いてるよ あっ!すごい綺麗…」と白い煙と共に出てきたお菓子を見ながら言った。
白磁のプレートに載せられたそれは、プレートの白ささえ引き立て役にするような真っ白なモンブランだった。うねる白い山に新雪のように白い粉砂糖がまぶしてあり、芸術性さえ見出だすことができる出来に見えた。
「ホントだ、すんごい綺麗… 頼んでよかったねツバキちゃん」
「うん、ありがとカメリア」

64 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:08:01 ID:7f/maLI3wJ
「じゃあ、私もオープン!」とフードカバーを意気揚々と開けた。
その中に入っていたのは、椿の頼んだモンブランの繊細さとは真逆の険しい山のようなに三段に積み上がったケーキだった。ケーキはそれぞれ色が違っており、一番下は新緑を意識した緑色のケーキ、中間は紅葉を意識したオレンジ色のケーキ、最上段は岩山を意識したチョコケーキが鎮座していた。
「こっちもすごいね」
「ふふん、言ったとおりすごいでしょ! さっ食べよっか、飲み物も冷めちゃうし」と得意そうな顔で言った後に紅茶を飲むと、ホッとした顔になった。
椿は「カメリアといると楽しいな」と思いながらコーヒーをすすった。
「あっ…美味しい」

65 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:08:54 ID:7f/maLI3wJ
「うんうん、紅茶も美味しいし…さてケーキに刃をたてましょうかな ツバキちゃんはこのケーキどれくらい食べる?」と聞いた後に右手にナイフ、左手にフォークでまるでステーキを食べるように上からカットして食べ始めた。
「それぞれをちょこっとづつでいいかな、ボクはフォークで…」
椿はフォークを持つと、白い山の山頂を斜めにすくいとり口に運んだ。
「…! おいひぃ…このコーヒーとすごい合うね」
直前に飲んだコーヒーの苦味とモンブランの甘味が調和を果たしており、今まで味わったことのない、新たな味覚を感じとっていた。
「ははっ! いい表情だねツバキちゃん」
「そ、そうだね…カメリアも食べる? おいしいよ」
「おっ、いいの? じゃあ交換だね 食べさせてよツバキちゃん」とカメリアはエサを貰う鳥の雛のように口を開けた。

66 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:09:42 ID:7f/maLI3wJ
「えーっと……もう、しょうがないなぁ」
椿は取り皿がどこかにあるか探したが、見つからなかったため、フォークですくいとりカメリアの前に渋々ではあるが持っていった。
「はい、カメリア」
「あーむ♪」と食べた瞬間に幸福の笑みを浮かべた。口のなかでとろける甘味と、栗のスモーキーな香りに虜になっていく。しばらくはこの甘味を噛み締めていたカメリアだか、口の中からなくなる甘味を惜しみ、ねだるような視線で椿を見つめた。

67 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:11:06 ID:7f/maLI3wJ
「………っ」
その無言の圧力に負けた椿はモンブランにフォークを差し込み、またカメリアの前に持っていった。
『なんかお姉さんになった気分 それか鯉のエサやりかな』と考えていた椿だが、そんな考えは露知らず与えられたモンブランを、「うんうん、おいしいよ!」と満足そうな顔で食べる、そんなこと数回繰り返した。
「カメリア、残り食べる?」
「えっ! いいの!」
「だって、もう一口しかないし…」
「あっ…! おいしくてつい…」
「はい、カメリア あーん」と皿に残った最後のひと欠片をすくいとり、プレートに積もった新雪をまぶし直し、小さな白い山を差し出した。
「いいの…ツバキちゃん…」とカメリアは控えめに言ったが、碧い瞳の中にはモンブランしか映っているものがない。フォークを左右にに動かすとそれに合わせて目線がサーチライトのように捉えて離さなかった。

68 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:11:50 ID:7f/maLI3wJ
「うんいいよ、ほら食べちゃって」と発するやいなや、モンブランをぱくりと平らげた。
「はぁー、美味しかったぁ …でも、ツバキちゃんのお菓子を全部食べちゃったし、私のケーキを食べて、半分しか残ってないけど…」と綺麗に半分に切られているケーキの山を指さしながら言った。
「半分しかって、それでもボクには多すぎるかも…」
「遠慮しなくていいよ、それか食べにくいなら私がケーキを切るよ」
「別に遠慮はしてないけど… なら、一緒に食べてくれるならいいかな」
「そうなの? じゃあ、一緒にたべよ♪」とカメリアはまた美味しいものを食べられるという期待で瞳が輝いていた。

69 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:12:26 ID:7f/maLI3wJ

〜〜〜

「ふぅ… ごちそうさまでした」
「ごちそうさま〜 おいしかったね」
「それにしてもすごい食べるね、ボクは半分の半分で満足したのに…」
「ふふん! 育ち盛りだからね、それにデルラさんくらい大きくなりたいし、ツバキちゃんももっと食べないと大きくなれないよ」
「デルラさんくらい…?」
「んん! ホントだよ 胸だって大きくなるんだから!」
「えっ? 何の話」
「あっ… ええっと、大きくなりたいって先生に話したらそんなことを言われたし…」と残りを言いかけたが墓穴を掘るだけだと思ったカメリアはそこで口を閉じた。
「ゴホン! まぁ、大きくなりたいと言うことで…」と伝票を持って慌ただしく奥へ行ってしまった。

70 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:12:56 ID:7f/maLI3wJ
ひとり取り残された椿は端末を取り出し、小さなため息をつくと朝の実験で得られたデータを整理し始めた。理論値とは大幅に異なったデータをにらみながら、表に数値を入れていったが、後ろからカメリアが戻ってくる気配を感じたので端末を閉じてポケットにしまった。
「また食べたいね」とカメリアに話しかけたが返事がなく代わりに、「ツバキさん、どうでしたか?」と真後ろからデルラの声が聞こえてきた。

71 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:13:35 ID:7f/maLI3wJ
椿は驚いて後ろを向いたがデルラはどこにもおらず、その代わりにカメリアが立っており、今日初めて会ったときと同じような表情をしていた。それに気づいた椿は恐る恐る「えっ…と カメリア?」と聞くと、すぐに「あはは! ごめんごめん、私の特技のモノマネだよ」と白状をした。
「もう!本当にビックリしたんだから、またやったら怒るよ」
「んん… わかったよ… 披露する相手がいなかったからできると思ってね」
椿は口ではそう言ったが、怒りよりも面白さのほうが上回ったため、もう一度聞きたくなった。

72 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:14:20 ID:7f/maLI3wJ
「ねぇ、他にどんなレパートリーがあるの?」
「えっ… えっとね、先生でしょ、デルラさんにお母さんとお父さんそして、ウキさんとコハネさんとあと………えっと、今は6人だね」
「うきさんとこはねさん?」
「どうしたの? ツバキちゃんも二人とお知り合い?」
「いや…うーん、どこかで聞いたことある名前だったから反応したけど…わかんないや」と首を振った。
「ウキさんとコハネさんはね、先生やデルラさん、そしてツバキちゃんと出会うきっかけになった人だよ それでね、いつか恩返しがしたいと思っているんだよ」
「きっかけになったひと…きっと素敵な人たちだよね、うきさんとこはねさんって」
「うん!いつかツバキちゃんもあのふたりに会えたら、モノマネも披露するね」
「あっ、うん… そういえばさっきの“先生”の言っていたこともモノマネだったんだね」

73 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:15:12 ID:7f/maLI3wJ
「どう?うまかった?」
「カメリアの先生に会ったことないからわからないけど、別人みたいだとは思ったかな」
「ホント!? なら成功かな」と喜びの表情と同時に尻尾は控えめに乱舞している。その際に、スカートのポケットから伝票が地面に落ちた。それに気づいたカメリアは、「あっ! デルラさんに渡すの忘れてた!」と慌てて拾いあげた。
「えっ!? どこに行ってたの?」
「うん? ちょっとお手洗いに行ってて、帰るときにモノマネを思い付いてその足で…」
「そういえばお金を渡してなかったけどいくらなの?」
「ん? お金は大丈夫だよ、依頼の達成金をで払ってもらえるように頼むから」
「依頼?って魔物退治のことだよね…」
「そうそう! どうにも奇妙な魔物らしくてね、魔法の修行も兼ねて行くんだ」と自信満々に言うカメリアに椿は不安な気持ちを押さえきれなかったので、「ボクもついていっていい? なんかちょっと心配で」

74 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:16:00 ID:7f/maLI3wJ
カメリアは少し困ったような顔をしていたが、「…いいよ でも、ついてくるからには自分の身は自分で守らないといけないよ それにティラミスちゃんが寝てるから、たぶん自分のことでいっぱいになっちゃうだろうし、もしかしたら本当に死ぬかもしれない…」といつになく真剣な表情で言った。椿はカメリアが発するその鋭い空気に気圧されたが負けないように、「ぼ、ボクにはチモシーがいる! きっとカメリアの役にたてるよ!」と張り合うように言った。
それを聞いたカメリアは一瞬うれしそうな表情を見せたが、すぐに鋭い雰囲気に戻り、「そうだね、ツバキちゃんにはチモシーがいるから問題ないか……」と続けたが気を張り続けることに疲れたのか、「そうだ!ツバキちゃん、補助魔法は使える?」と言い終わるころにはいつもの雰囲気に戻っていた。

75 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/05/29 20:16:18 ID:7f/maLI3wJ
「えっと…使えるけど、どうして」
「私はね、自前で補助魔法が使えないから使えるならすごい助かるの」
「えっ!でも、ここにくる前に転移魔法?を使ってたよね」
「まぁ、それは後で説明するから、移動しよっか」

☆☆☆

76 名前:カレル[age] 投稿日:2023/06/02 20:06:45 ID:sRP5Dxmek5
「ええ、いいわよ」
「ありがとうございます! デルラさん」
「でも、椿さんにも装備が必要よね カメリア、椿さんにどんな装備がいいか聞いてくれるかしら?」
「はーい ねぇ、ツバキちゃん」とすぐ後ろにいる椿に「魔物と戦ったことはある?」と聞いた。
「ううん… ボクは戦ったことはないけど、チモシーなら試験のためにジンジャーと戦って互角ぐらいかな…」
「うーん、ツバキちゃん自体は戦闘したことないのか… どうしましょう、デルラさん?」とデルラに向き直り彼女の意見を仰いだ。
「そうねぇ… 椿さんは見たところ、カメリアと同じくらい魔力の量が多いし、チモシー?という遠隔武器も持っているみたいだし 後衛で丈夫さと軽さを重視した装備がいいかしら そうなると、あの装備がいいかしら…」とカウンターから古ぼけたノートを取り出すとパラパラとめくった。

77 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/02 20:08:51 ID:sRP5Dxmek5
「あの…デルラさん…」
「ん? 椿さん、なんでしょうか?」
「えっと… ぼ、ボクのためにいろいろ考えて…ありがとう…ございます」
「別に気にする必要はないのよ、あなたたちが依頼を成功させれば多くの人が助かるもの、そのお手伝いよ ま、まぁ…お金はいただくことになるけれど、手間賃みたいなものね…」と言いながらノートをめくっていたが、目的の記述が見つかったようでメモ帳にそれを書き記すと椿たちに見せた。
「これがツバキちゃんの装備ですね 素材は妖精の粉と雲の糸… 集めやすいかな」
「あ、あの……すみません… デルラさん… ボク、素材は持っていなくて…」
「あっと!説明していなかったわね、この素材はうちの倉庫に在るから問題ないわ これは終わったあとに集めてくれればいいわ それか、椿さんが素材を買い取ればいいけれど、どちらがいいかしら?」

78 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/02 20:09:49 ID:sRP5Dxmek5
「えっと………」
俯いてしばらく考えていた椿だが、初めての対面での商談に戸惑いカメリアの背中に隠れてしまった。
「ありゃりゃ」
「…そうよね、いきなり言われてもわからないと思うから、準備自体はしておくわね その間にうちの商品でもみて考えが纏まったら、またいらっしゃい」
デルラはカメリアにメモを渡すと、ノートをカウンターにしまい、微笑みを椿に向けた。
椿もカメリアの背中にいて落ち着いたようで、「わかりました」とデルラと話して今までで一番ハッキリした返事をした。
それを聞いたカメリアはジェスチャーで椿に気づかれないように「デルラさん! デルラさん! ツバキちゃん、デルラさんに慣れてきてますよ」と交信すると、デルラも「ええ、それは喜ばしいことだわ」とジェスチャーで返した。
二人のその様子に椿は首を傾げていたが、「さっ、いこっ!ツバキちゃん」とカメリアに手を引かれて思考が中断されてしまった。

79 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/02 20:10:08 ID:sRP5Dxmek5
「きれいなものがいっぱいあるね」と棚の宝石を指さしながら言った。
「でも、高そう…」と値札をめくったがそこには「500coin」と書かれていた。椿はその値段に驚き、他の値札もめくったが高くても1500coinの値段のものしかなかった。
「カメリア、これって安くない!?普通この大きさだと八桁ぐらいはいくよね!」
「そうかな? 錬金術でそこそこ出る副産物だからね、それに魔法的価値はないから見た目だけだね それを削って宝石にしたものだから安いんだよ」と宝石を手に持って見回した。

80 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/02 20:10:27 ID:sRP5Dxmek5
「そうなんだ…」と平静を装って答えたが、エトワリアの常識に衝撃を受けていた。
今までも普段からジンジャーの屋敷に引きこもって、チモシーの調整ばかりしていた椿にとっては何もかもが新しく驚きの連続だったが、手に持っている大粒の宝石の値段には特に驚いた。
これは椿がもといた世界でチモシーのセンサーの素材に使われていた宝石で、小粒ほどの大きさでもある程度の値段をしていた。なので、以前ジンジャーにこの宝石が一粒欲しいと言ったときに、不思議な顔をしていたことがあったが、その意味が理解できた。

81 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/02 20:10:57 ID:sRP5Dxmek5
「ツバキちゃん、これ買うの?」と持っている宝石を椿に渡した。
「うーん… これはいいかな ボクの部屋にまだあるし、それに貰ったものと釣り合う気がしないし」
「えーっ! 別にツバキちゃんがくれるものなら何でもいいのに それにツバキちゃんの綺麗な瞳の色とそっくりの碧だよ」と当然だというような表情で言った。
それを恥ずかしげもなく言うカメリアに「…それをいうなら、カメリアだって綺麗だし……」と聞こえないように口の中で呟いた。

82 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/02 20:12:30 ID:sRP5Dxmek5
「ん? どうしたのツバキちゃん?」
「なっ!なんでもない!」と覗き込んできたカメリアから逃げるように棚向かいに飛び出した。しかし、逃げ出した先である人物が視界に飛び込んできた。白いワンピースに長い赤髪をおさげにしている少女で椿には見覚えがあった。少女は棚の商品に集中しているようでこちらの存在に気づいていない。
その様子にしめたと思った椿だが、後ろからくる「ツバキちゃん!どこ行くの?」という声によってこちらの存在が露見してしまった。
少女は「ツバキ?」と呟き棚から視線を外すとバッチリ目が合ってしまった。
椿と少女はお互いに「あっ…!」と声を上げたが、片方は後退りをし、もう片方は瞳を輝かせ前進をした。
「椿様! いゃあ偶然ですね、こんなところでお会いできるなんて ランプ感動です!」と興奮した様子が伝わるほど早口で言った。
椿はそのまま後退を続けていたが、「痛っ! ツバキちゃん!」と後ろから追いかけてきたカメリアにぶつかり退路を塞がれてしまった。

83 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/02 20:13:12 ID:sRP5Dxmek5
「あっ!…ごめん、カメリア」
「もう、気をつけてよね」
「うん…」
「それより、目の前にいる人はツバキちゃんのお知り合い?」と背伸びをして椿の肩から見える人物を紹介してほしそうな、期待を込めた信号を送っている。
椿は視線を少女に戻すと、こちらも興味津々といった表情で二人を見ていた。
後ろを見ても前を見ても同じような状態に陥ったので、観念して大きくため息をつきカメリアの後ろに付くと、「えっと、カメリア こちらはえっと…女神候補生のランプさん」と記憶を辿りながら紹介をした。

84 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/02 20:13:43 ID:sRP5Dxmek5
それを聞くと「えっ!女神候補生のランプ様!?」と大きな声を上げ、少女は「は、はい…」と困惑した様子で答えた。
「カメリア、ランプさんのこと知ってるの?」と椿はランプのことを知らないと思っていたため聞き返すと、カメリアは「知ってるなんてものじゃないよ! きらら様、うつつ様、ランプ様、このお三方がリアリスト動乱を解決に導いた英雄だよ その一人のランプ様が目の前にいるんだよ!」と声を荒げてランプに迫り「すみません、ランプ様!不躾なお願いですが握手をしてはいただけませんか!」と左手を差し出した。
クリエメイトに対して迫ることは慣れているランプだが、自分が迫られることには慣れていないのか「は、はい… ありがとうございます…」と困惑した様子でカメリアの手を握った。
「わっ! ツバキちゃん!ツバキちゃん! ランプ様に握手してもらってるよ! ってあれ?」と隣にいる椿に話しかけたがそこにはおらず、少し離れて引き気味の視線を送っていた。また、握手されているランプはカメリアの圧に押され椿に「助けて」という視線を送っている。しかし、この状況にどうすることもできず、カメリアの興奮が収まるのを待つしかなかった。

☆☆☆

85 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2023/06/02 22:30:37 ID:VHdfHGQ8Ps
ランプのこういうシチュエーションは新鮮ですね

86 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2023/06/03 08:14:21 ID:jBK4mTXCbS
『今までも普段からジンジャーの屋敷に引きこもって、』
椿はキャラシナリオで外に出て里にいるはなこたちに会いに行く訓練をしていましたし、球詠の参戦イベントの時にはなこたちと野球のチームに入っていたのでここはすごい解釈違いです。

87 名前:カレル[age] 投稿日:2023/06/03 09:31:45 ID:42PniNDtka
>>85
コメントありがとうございます!

押しの強い子が逆に押されると、おどおどしてしまうみたいな状況って良いですよね

88 名前:カレル[age] 投稿日:2023/06/03 09:38:40 ID:42PniNDtka
>>86
コメント&ご指摘ありがとうございます。

私も『きららファンタジア』の二次創作ということを謳っているので椿が登場する話を全てチェックするべきでした、すみません

あと、表現として「引きこもって」はチモシーを開発に集中している期間は引きこもっているみたいな認識で書いてしまったので、pixivで修正したいとおもいます。

こういった指摘が来ることがなかったので少しうれしいです。

89 名前:カレル[age] 投稿日:2023/06/07 19:58:00 ID:iUnZmJ3tEF
「カメリア、落ち着いた?」
「うん… 落ち着いたよ」と椿に言うと「ランプ様、気持ちが抑えきれなくてすみません…」と深々と頭を下げた。
「いいえ、大丈夫ですよカメリアさん、頭をあげてください 私もその気持ちがわかりますから」と言ったがカメリアはまだ深々と頭を下げている。
「はい… ありがとうございます ランプ様」
その様子に慌てたランプは「いえいえ! 私はそんな大層な人間じゃありませんから ええと……私はクリエメイトの皆様が大好きですが、あの方たちに会った際はあなたと同じ反応になってしまいます 椿様と会った時もです!」
「ツバキちゃん?」とカメリアは椿の名前を聞いて頭を上げた。

90 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/07 19:59:39 ID:iUnZmJ3tEF
ランプは言葉を続ける「はい! なので私は全く気にしていません あと“ランプ様”ではなく“ランプ”と呼んでください」
「えっ、でも…」
「さぁ、ランプと呼んでください」
「……、わかりました ランプ…さん」
「はい! ただ…“ランプさん”も、少し恥ずかしいですがよろしくお願いします」と言ったあと思い出したように「そうだ! えっと、カメリアさんでしたよね あなたのお名前は?」
「はい!」
「カメリアさん、椿様とはどういったご関係なのですか? お二人の様子を拝見する限り、かなり仲が良いように見えます…」と不思議そうな顔で二人を見回した。
カメリアはランプの言う「椿様」という呼び名が少し気になったが、これ以上考えていると雑念が再燃すると思ったので気を落ち着ける意味も含めて、「はい! 私と、ツバキちゃんはお友達なのです! ねぇーっ、ツバキちゃん」と離れていた椿の側に寄り優しく手を握った。

91 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/07 20:01:03 ID:iUnZmJ3tEF
椿は「ちょっと、カメリア…」と人前で手を握られることに恥ずかしさを覚えたが、その温もりが完全に伝わりきる前に「うん…ボクの友達…」と噛み締めるように言った。
 その言葉を言い終わったあと、朝にジンジャーにはっきりと言えなかったことを思い出した。あのときはまだ自分の中で確信がなく、曖昧な答えになってしまっていたが今では自信を持って「友達だ!」と答えられると確信した。
「素晴らしいです 私も椿様とお友達になりたいなぁ…」
「ランプさんもツバキちゃんとすぐにお友達になれると思いますよ、私は出会ってすぐにお友達になれましたし」
「そうなのですか? ……いえ、きっと椿様はカメリアさんの魅力に惹かれたのだと思います… 少なくとも、私が椿様のことを“椿様”と呼んでいるうちは難しいと思います…」

92 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/07 20:02:17 ID:iUnZmJ3tEF
「そうなのですか……… では私とお友達になりませんか、ランプさん!」
「えっ!? 私なんかとお友達になってくださるのですか?」
「はい! あっと! 私の自己紹介がまだでしたね 私はカメリア、大魔法使いカルラの弟子です よろしくお願いします」
「カメリアさんが……カルラ様のお弟子さんなんですね… よろしくお願いします」
「ランプさんは先生をご存知なんですね、なんだか嬉しいです」
「ええ、私の先生がカルラ様に手をや…頭をなやま… えーっと、お世話になっていますし…ははっ…」
「す、すいません 私が先生を止めることができればよかったのですが…」
「いえいえ! カメリアさんが謝る必要はございません!」
「いえ!いつか私が先生と結婚できたら、ちゃんと管理してみせます、それに先生には私がいないと生活できないくらいには依存してほしいですし!」と蔭のない満面の笑顔で言った。

93 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/07 20:02:51 ID:iUnZmJ3tEF
だが、その様子にランプは触れてはいけない雰囲気を感じたため、「あ…あの、おふたりはここに何を買いに来たのですか? 私はきららさんに贈るものが何がいいかと見に来たのです」と話題を逸らした
「きらら様にですか!それはきっと素晴らしいものを贈るのでしょう… あっと、私たちですよね 私はというか、ツバキちゃんが私へのプレゼントを買いに来たのです 私は魔物退治のための準備というところです」
「椿様がプレゼントを… くぅーっ! 羨ましいです 私も戴けるならいただきたいです!」と自分が椿にプレゼントを貰っている妄想をして身もだえた。

94 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/07 20:03:32 ID:iUnZmJ3tEF
カメリアはランプの悶えている様子を見て、左後ろにいる椿にこっそりと「ほらね、ランプさんも私と同じ意見でしょ?」と囁いた。椿は最初、言われた意味がわからず、彼女のしたり顔を眺めるだけだったが、意味に気付き小さく首を縦に振り、カメリアに了承のサインを送った。
「あっ! そうだ カメリアさん、魔物退治に行くのでしたか?」
「ん? はい、そうです 里近くの西の山辺りで変なモンスターが出たということで、その退治です」
「でしたら、きららさんも今日魔物退治に行くとおっしゃってましたし、お会いになるかも知れませんね」

95 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/07 20:04:56 ID:iUnZmJ3tEF
「そうなのですか! はぁ…きらら様ともお会いできる可能性があるなんて、ツバキちゃん!今日はとってもツイてる日かもしれないね」と椿の手を握りながら、激しく尻尾が乱舞している。

 椿は「そうだね」と流暢に答えたが心のなかでは、「ツイてる」という言葉が引っ掛かっていた。それそのままの言葉ではないが友人の花小泉杏がそれに近い文句をよく言っているため気になってしまった。それは、不幸な目に遭ってもそのなかに良いことを見つける、彼女のポジティブさを象徴とするものだ。しかし、不幸な目に遭うという事実は変わらないことであり、その言葉自体にはポジティブな意味しかないが、それに付随する現象にはネガティブな結果が付いてくるという方程式が完成していたために、今までの嫌な予感と合わさり、気にしすぎと思っていてもその発言を完全に同意しきれなかった。

96 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/07 20:05:37 ID:iUnZmJ3tEF
「では、私はこのあと用事があるため失礼します カメリアさん、お話できて楽しかったです 椿様もお会いできてよかったです またお会いしましょう」
ランプはそう言うと、箱に包装された小包を抱えて去っていった。

「はぁ〜 ランプさん、いい人だったなぁ… そうだ、そろそろデルラさんの装備も出来てる頃合いだと思うし、ツバキちゃんはどう?」
「…あの、カメリア ぼ、ボクの口でデルラさんに伝えたいから、ここで待っててくれていい?」
「…!? …ホント?」
「うん… 魔物退治は危険なんでしょ、それについていくなら自分のことは自分でやらなくちゃいけない… だから…行ってくる…」と言い残し、デルラがいる店の奥へ歩き出した。
しかし、その足取りは遅く、何度も振り返ってきたため「ツバキちゃん、がんばって!」と苦笑混じりに応援をして見送った。棚の影にも椿の姿が見えなくなったため、カメリアは声援を止め、棚の商品に視線を移した。

97 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/07 20:06:17 ID:iUnZmJ3tEF
そこに陳列されている商品はペアグッズなどであり、食器やアクセサリーのほかに、筆記用具や寝具なども置いてあった。その商品をざっと見渡し、正面にあったペアのマグカップを手に取った。陶器製の器で片割れのハートがペイントされており、もうひとつのカップを会わせるとハートが完成するようになっている。カメリアはそれを重ね合わせながら、師匠であるカルラと使っている姿を想像していた。たがアプローチしても全く手応えがない今の師匠と弟子の関係ではこれを使うのは夢のまた夢だと思い、静かに棚に戻した。
そのあとは、気勢が削がれたままペアの商品を大雑把に眺めていたが、絶え間ない右手の小さな痛みにため息をついて、寝ているティラミスに話しかけた。

98 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/07 20:07:30 ID:iUnZmJ3tEF
「ねぇ、ティラミスちゃん ツバキちゃんをどう思う? 私はね、お友達になれてホントによかったと思ってるよ、こうしていっしょに魔物退治に行くことにもなったし、嬉しい …でも、いつかツバキちゃんがどこかにいっちゃうのかなって少し不安になるときもあるんだよね なんとなくだけど、昔も同じようなことがあったんじゃないかって、思うこともあるけど でも記憶にないし、きっと気のせいだよね… うん!ティラミスちゃんは眠ってると思うけど、聞いてくれてありがとう」
カメリアは一通り結論をつけると、またぼんやりと商品を眺めて椿が帰ってくるのを待った。

☆☆☆

99 名前:カレル[age] 投稿日:2023/06/10 20:06:30 ID:czMXouILjx
「カメリア、お待たせ… デルラさんと話してきたよ」
「お疲れっ! どっちにしたの?」
「えっとね、素材を集めるほうにしたから… だから…手伝ってほしいな」
「うんうん! いいよっ! 私の依頼が終わったら、いく?」
「う〜ん… いや、その依頼がどんな難易度かわからないから、後日にしてもいい?」
「それもそうだね まずは目の前の依頼を完遂させることが第一、だもんね」
「そうだ!デルラさんが、カメリアの装備もできたから来てって言っていたから、いっしょに…」と控えめに言うと、カメリアの手首を握り歩き出した。その時、右後ろでは椿の積極的な姿勢に驚きの表情をしていたが、すぐに驚きが消え「よーし! ツバキちゃんの装備楽しみだなーっ!」とすぐに握り返した。

100 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/10 20:07:03 ID:czMXouILjx
「ふたりとも来たわね、さっそくだけどこれがカメリアの装備、こっちが椿さんの装備よ」とデルラは椿とカメリアの姿を確認すると、カウンターから籠に入れられた装備を二人に渡した。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます…デルラさん」
「ええ、フィッティングルームはこっちだから、そこで着替えてくれればいいわ あと転移結晶も行きと帰りの2回分充填しておいたから大切に使いなさい」と懐からあの魔方陣が刻まれた小さな結晶を取り出し、それをカメリアに渡すと、また店の奥へと消えていった。

101 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/10 20:09:28 ID:czMXouILjx
「カメリア、これは?」
「ん? ああ、これね これが私が補助魔法を使えなくても転移魔法が使えた理由だよ 他にもいろんな魔導具を作っていてね、例えば…」と試着室のカーテンの前に籠を置き、ノールックで籠の中に手を突っ込みまさぐっていたが、目的のものを見つけたようで「みよ! じゃしゃーん、メガネ」と自信満々に一見なんの変哲もない眼鏡を取り出した。
「これって、眼鏡だよね…」と自分をからかっているのではないかと訝しみ聞き返したが、カメリアも心外だとばかりに、「もう、これはただのメガネじゃないんだよ これはかけると対象の魔力量とか弱点とかが丸裸になるというすごい代物で…」と言いながら眼鏡をかけ,椿のことををじっくり観察しだした。

102 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/10 20:10:40 ID:czMXouILjx
「っ……!?」
「ふむふむ… 確かにデルラさんの言う通り…」
眼鏡によって魔力を見られている間、椿は全身をなで回されるような、得にも言われぬ感覚を味わった。しかし、これが精神的なものか、物理的に起こっているものなのか判断がつかず硬直した。そして、足の先から頭までを見終わるとこの感覚が消滅したため、これが魔力をみられる感覚なのだろうと考えていた。
観察が終わったカメリアは「へぇ… ツバキちゃんはかなり魔力の量が多いね 上級魔法を何発も打っても息切れしないくらいだね」と言い終わると、眼鏡のブリッジ部分を意味ありげに上げ満足したように眼鏡を外し、「かけてみてツバキちゃん でも借り物だから慎重にね」と手渡した。

103 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/10 20:11:59 ID:czMXouILjx
「これって、かけるだけなの?」
「そう、あとは測りたい対象を凝視するだけだよ、ほら!よくいうでしょ舐めるようにって そうすれば相手の魔力量がわかるんだよ」
椿は「わかった」と言いつつ未だ警戒しながら、カメリアに倣い彼女のことを凝視すると周りの空間から色がぼんやりと出始めた。まるでサーモグラフィーのように色がはっきりしはじめ、それに追加され視界の右上辺りに太陽のマークも同時に出てきた。
それをチラリと見ながら、そのまま足先から頭の辺りまで視線を進めていると、くすぐったそうにカメリアの獣耳が横向きにペタンと倒れヒコーキ耳のような状態になった。そして、さっきまで元気に動き回っていた尻尾も青菜に塩をかけたようにしゅんと萎れている。

104 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/10 20:12:39 ID:czMXouILjx
「ど、どうかな… 私の魔力量とかわかったかな…?」と絞り出すように言った。
「だいじょうぶ? なんか、元気ないけど…」
「ちょっと魔力量を測られることに慣れていなかったせいかな…? 全身をなで回されているような感覚があってね、ティラミスちゃんもいないから、それに過敏に反応しちゃって…」
「そういえば前に魔力に耐性があるのはティラミスちゃんのお陰っていっていたもんね、でもやっぱりこの感覚は味わうのか…」
椿はさっきの感覚を思い出し、これが錯覚ではないことを再確認した。そして、魔力量を測るプロセスがわからないがこれをチモシーのセンサーに使用することができれば、問題を解決できるかもしれないと思い、それを聞くために眼鏡を外しカメリアに返した。

105 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/10 20:13:39 ID:czMXouILjx
しかし、カメリアは魔力過敏の影響で元気がなかったため、復活するまでしばらく待ち、「カメリアこれって素材は何を使ってるの?」と聞いた。
「ん? ああ、これの…… えっと確か『角柱』っていうめっ…っちゃ!珍しい素材が使われてるってデルラさんが言っていたような?確かだけど…」
カメリアが溜めるほど珍しいと言ったので身構えて、「…それってコインにしたらどれくらい…」と恐る恐る聞くと「うーん… コインにすると……? 予想だけどこういった特殊な素材は最低でも7桁とか行くんじゃないかな 前に見た魔力を吸収する素材が9桁とかいっていたってデルラさんからきいたからそれ以上かな?」

「9桁!? じゃあ…推定あの眼鏡が10億以上……」とさっき持った眼鏡の重さで手が震えてきた。それは物理的な重さではなく、金額の重みによるものだが、こんな高価なものを渡してきたカメリアの無頓着さや、それを貸し出すデルラという人物が何者だという疑問も含まれていた。

106 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/10 20:15:22 ID:czMXouILjx
「ね、ねぇ… 少し気になってたけどデルラさんって何者なの ボクは交友関係も広くないけど、さっきちょっと話して、とんでもなく凄いひとなのは薄々わかったけど…」
「おっ! やっとデルラさんのすごさがわかったの? いいよね〜、私も大きくなりたいよぉ」
「……そうだね」と返し、話がちゃんと伝わっていないと察したが話を続ける「で、カメリアはデルラさんのことよく知ってるかなって…」
「そうだな〜 デルラさんについては…… そうだ、この話ならツバキちゃんも食いつくんじゃないかな? とっておきだよ」と得意顔になって言った。
「それって、どんなはなし?」
「えっとね、どうしたら胸と身長が伸びるか聞いたことがあるんだけど、それを聞いたら “え? 大きくなる秘訣ですか? そうですね、特にコレといったものは無いですが…おいしいものたくさんを食べることですかね 私の場合は好物の…ワインを摂取することかしら” っていっていたよ、つまりたくさん食べれば大きくなれる」と途中デルラのモノマネを挟みながら言った。
「マネがうまいけど…… それにワインは飲んでも体を作ることができないと思うんだけど… カメリア、体のこと以外でお願いします…」
「まっ、おしゃべりはその辺にして着替えようよ、ツバキちゃんに新しい装備を見せたいし、それにツバキちゃんのも見たいし」と長話になりそうな気配を察したのか話題を切り、装備の入った籠を持つと試着室のカーテンを揺らし入っていった。

107 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/10 20:15:51 ID:czMXouILjx
残された椿は後で話を聞けばいいと思い、籠を持ち試着室に入ると、籠の中から装備を取り出した。
それには手書きの説明書が入っており、表紙には「“まどわしのフード” 特殊な糸で織り上げたフードで敵意から装備者を守ります」と書かれて、他には使用例や洗濯方法、保管方法もかかれていた。
紙をざっと読み終わると籠に戻し、フードを広げ髪型が崩れないように羽織ると姿見で確認した。しなやかなで全身をすっぽりと覆い隠すように包むそれは体の一部のような趣さえあるように感じ、動いてみるとフードもそれに付随して動くので、動きの邪魔にもならず、高い隠密性があると確信できた。
一通り動きを確認すると、籠をもって試着室から出た。しかし、先に入ったカメリアはまだ着替えをしている様子なので、近くのベンチに腰を下ろし彼女が来るのを待つことにした。

108 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/10 20:16:17 ID:czMXouILjx
一方、椿がベンチに座っていた頃、カメリアは鏡の前でポーズを決めていた。
リボンの位置を直したり、ポニーテールを結び直していたりしてその姿を確認していたが、仕上がりに満足がいったようでくるりと踵を返し、「おっ待たせー どうかな?」とカーテンを開けた。しかし、そこに椿はおらず外に出て隣の試着室も確認したが、そこにも椿はいなかった。
カメリアは狐に摘ままれたような表情のままベンチに腰を下ろすと、まもなくして椿が戻ってきた。

109 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/10 20:18:11 ID:czMXouILjx
「あれ? ツバキちゃんどこに行ってたの それに装備は?」
「カメリアがまだいなかったから、ちょっとお手洗いにいってたけど… また着るからちょっと待ってて」
トイレに行く前に籠に戻したフードを掴むと、もう着方も心得ているため優雅な動きでそれを羽織ると、椿の動きに合わせてはためいた。
「よく似合ってるね! ツバキちゃんの服が隠れちゃうのは残念だけど… それと、私はどうかな? 似合ってるかな?」と図書館を出るときと同じように一回転をし、そのあとに木製の杖を持った。
「へぇー! なんだかthe まほうつかいみたいでカッコいいね」


https://kirarabbs.com/upl/1686395891-1.jpg


110 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/10 20:19:19 ID:czMXouILjx
「えへへ、ありがとう」としばらく嬉しそうにしていたが、次の瞬間に笑顔が消え「そろそろ西の山に行くけど、準備はできた?」とこれが最後の警告だと言わんばかりに真剣な表情で問いかけた。
それには椿も背筋を伸ばし、「大丈夫、今さら気が変わったりしないよ」と視線を外さずに答えた。

「…そう ならよかった!じゃあツバキちゃん、私の手を握って待っててね」と椿の答えに満足したようで、いつもの調子に戻り、右手に転移結晶を持って詠唱を始めた。
椿は彼女の手を握ると、ゆっくりと光が周囲を包んだ。

☆☆☆

111 名前:カレル[age] 投稿日:2023/06/13 20:17:57 ID:RTbwtt.Jzf
「うっ… ここは」
眩む目を擦りながら、目を開けると緑が生い茂る地面が視界に飛び込んできた。今までは石畳やフローリングの床しかなかったので、移動してきたことがすぐにわかり、移動のブランクも一切感じさせることもなく一瞬でここに移動したことをうけて、改めて魔法のすごさを肌で感じていた。

「ここは西の山に入る前の休憩地点だね、ここから目的地までは少し距離があるから、地図を確認してから行こっか」と近くのベンチ腰を下ろすと、懐から大小の地図を取り出し、テーブルに広げた。
「えっと、まず私たちはここから、ここまで移動してきたんだけど」と大きな地図の中央にそびえる「言の葉の樹」の下を指でなぞり、現在地を指先でくるくると示した。
「ボクたち、あの距離をあんな一瞬で行ったんだ…」
「そう、転送ゲートもあるけど、あれはちょっと間があるからね、これが最速だよ まぁ、距離に比例して消費魔力も莫大になるから気軽には使えないけど… それはいいとして、次は小さな地図ね」

112 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/13 20:18:41 ID:RTbwtt.Jzf
カメリアは横にスライドするように、移動すると次に小さな地図を指差した。

「で、こっちが里や周辺の地図だね これが里ね それで目的の西の山はこっち」と色々な建物が描かれた里を指し、次に里を取り囲むような山の一点を指で丸く囲んだ。
他に地図の北側には大きな峡谷が描かれており、クリエメイトが多くいる割にはなかなか辺鄙な場所に里はあるのだな、と椿は思っていた。

113 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/13 20:19:26 ID:RTbwtt.Jzf
「ここからは歩いて行くんだけど、途中までは街まで行くための道が整備されてるから問題なく行けるけど…ここね、ここから獣道に入っていくよ」と途中まで道をなぞっていたが、山の中腹に差し掛かった辺りで、道を外れて木々の間を進み始めた。
「で、ここから少し行ったところに大きな木がたくさんあって、そこを件の魔物が寝床にしてるって情報だよ どうかな?」
「えーっと、ここからここまで行って…道を外れて行くんだね… 」
「そうそう、地図で確認すると近く見えるけど、少し距離はあるからね、獣道まで2時間で行ければいいほうかな?」
「わかった、ボクも体力の方はたぶん問題ないと思うから早速いこう」
「りょうかい! じゃ、地図を片付けて、出発しよっか」

そそくさとベンチに広げた地図を畳み、スカートに付いた砂を払い落とすと、魔物の潜む森のなかに進んでいった。

114 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/13 20:20:21 ID:RTbwtt.Jzf
 椿たちは木々が鬱蒼と繁る森のなかを歩いていた。途中、数回の魔物との接触もカメリアの魔法による威嚇で戦うこともなく、安全に進めている。
 彼女は小柄ながら、そこから繰り出される電撃の魔法は強力で触れた地面を容易く抉り、土塊を弾け飛ばせていた。椿も強力な魔法は使えるが、リキャストがあり連発はできない。しかし、カメリアの方は連続で使用しても全く息切れをしていないように見える。
 
この電撃が自分に向けられることがないとわかっていても冷や汗が出るほどの威力を有していた。街では明るく朗らかだった表情が消え、感情のない、凍るような冷たい瞳が対象を貫いており、あまりの温度差に恐怖すら覚えるほどだった。また、冷徹でそして圧倒的な魔法もその一端を担っている。

115 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/13 20:20:58 ID:RTbwtt.Jzf
「ふぅ… よしっ!ツバキちゃん、もう少しで折り返し地点だね!」と魔物を追い払うといつもの態度に戻って振り向いた。
「うん…、ありがとう」その瞳は震えていた。
「あれ? どうしたの?ツバキちゃん」と心配そうに椿の顔を覗き込んだが、椿は反射的に顔を逸らし、「あぁっ… ちょっと…カメリアの雰囲気が変わりように、対応しきれなくて…」と小さく呟いた。
 それを聞いたカメリアは寂しそうに「ははっ…そうだよね、怖いよね」と言いながら顔を隠し、椿を待つことなく先に進んだ。

116 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/13 20:22:26 ID:RTbwtt.Jzf
 その後ろ姿に椿は後悔を覚え、彼女に声をかけようとした。しかし、言葉で何か伝えようとしても、今の状態ではこの場をただ切り抜けるための方便にしか受け取られないと思ったため、カメリアの後ろ姿を追うことしかできず、人を避けていたあの頃の、昔に戻ってしまったかのような閉塞感が襲いかかってきた。

その後も魔物が襲ってきてもカメリアは変わらず、機械のように正確に魔法を唱えると魔物に掠らせ、戦うこともなく進んでいく。戦闘が終わったあとは、心配そうに椿をちらりとみたがすぐに視線を戻しそそくさと歩き出した。

117 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/13 20:23:27 ID:RTbwtt.Jzf
そこからしばらく道なりに歩いていると、明後日の方向を見ながら椿にも聞こえるように「もう少しで獣道か」と独り言を言うとまたそそくさと歩みをすすめた。

 それを聞いた椿はカメリアへの先の態度を酷く後悔した。
あんなことを言って傷ついていないはずはないのにと思い、そんな自分を気遣ってくれているカメリアの優しさに心から謝ろうと彼女に近づこうとしたが、頬の横を暴力的な光が掠めた。
 その時の彼女の瞳は無機質で最も冷たく、この中に殺意に近い激しい感情が渦巻き、「近づくな」と無言で言っている。それが自分に向けられていると感じた。

118 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/13 20:24:16 ID:RTbwtt.Jzf
 椿はあまりのことに思考が凍結したが、その後に「危ない!!」との叫びと伴に後ろからは木々がはじけ飛ぶ破壊音と、魔物の絶叫が聞こえた。
 無音の光が過ぎたあとに、オゾンの酸っぱいような焦げたような臭いが鼻につき、掠めた電撃の、過去の軌跡を目で追いながら、全身の力が抜けたようにヘナヘナと地面に座り込んだ。
すぐに「大丈夫…!?」と慌てた声がしたが、足音が椿から数メートル離れた場所で聞こえなくなった。
 椿はおろおろと顔を上げると、差し込む陽光を浴び、手を差し出そうか、なにもしないかを葛藤しているカメリアの感情豊かで暖かい碧い瞳が真っ先に飛びこんできた。

119 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/13 20:24:47 ID:RTbwtt.Jzf
それに椿は何か考えるよりも先に、

「あ゛りがどう゛!!!グッ゛……グスッ ごめんね゛ンッ゛!!ぼ、ボク、ぐっ、グスッ゛……が、ガメ゛リアはカメリ゛アなのに!! ボクがどもだち゛なのに゛、ハアハア…ざける゛ような態度どっで……グスン…だいどどっで!…ごめ゛んねぇ゛!!!」

涙で顔をぐちゃぐちゃに濡らしながらカメリアに抱きついた。

120 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/13 20:26:19 ID:RTbwtt.Jzf
「えっ…! ツバキちゃん!?」
 カメリアはいきなりのことに瞳を大きくしたが、すぐに椿を抱きしめフードの上から頭を撫でた。まるで母親が自分の子供をあやすかのように、ゆっくりと一定のリズムに則って。

 しばらく撫でていると、カメリアが落ち着いた声で「ねぇ、ツバキ フードとってもいい?」と聞くと、椿は無言で掴む力を強くした。
これを肯定と受け取り、涙で濡れた睫毛に指を這わせ、そのままフードに絡ませると、椿の金色の髪を露にした。それは一点に差し込んだ光と風を集めて一握りの黄金のように、更にまばゆく輝いていた。
カメリアもここが魔物の巣窟であるということを忘れ、その後も変わらぬリズムのまま、ただ無言で撫でていた。
 それは椿が落ち着くまで続いた。

☆☆☆

121 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2023/06/13 23:26:23 ID:PJKRStJ4kJ
抱きつきながら泣き、頭を撫でられる。それで落ちないわけはなく……。

122 名前:カレル[age] 投稿日:2023/06/14 21:53:22 ID:nPgSqScydi
>>121
コメントありがとうございます。

雨降って地固まる、これからもっと仲良くなっていけます。

123 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2023/06/14 22:00:00 ID:VVvoqBRhOM
『これからもっと仲良くなっていけます』
アルバトロスの愛のこはねと宇希と同じくらいですか?

124 名前:カレル[age] 投稿日:2023/06/14 22:20:01 ID:nPgSqScydi
>>123
コメントありがとうございます

単刀直入に申しますと、答えはNOです。

私がそう言った関係を描くのは今のところ宇希先輩以外はないのです。期待されているところ申し訳ないですが。

125 名前:カレル[age] 投稿日:2023/06/19 19:52:12 ID:udUNNDQPy9
「…ごめんね、カメリア」
「ううん… 大丈夫だよ 私も闘いになると他のことを考えられなくなっちゃって、それで地元の友達にね、怖がられちゃったこともあったから思い出しちゃって…」
「いや!カメリアが気を遣う必要はないよ ボクもカメリアに頼りすぎてた ここは魔物の巣窟なのに気をしっかり持ってなかった!」
椿はそう言うと急いで立ち上がった。
「…あ、あと さっきの事は誰にも言わないでね… 恥ずかしいから」
「うーん… じゃあ、私もツバキちゃんのこと“ツバキ”って呼んだの忘れてもらってもいいかな?」とカメリアも立ち上がった。
「えっ!?何で?」
「私も恥ずかしいから…」
「…そ、それは… 呼び捨てで呼んでくれるの嬉しかったから、これからも“椿”って呼んでくれると嬉しいかも…」と照れ隠しにカメリアの手を強引に握った。
「………!? …ツバキ、うん ツバキ… まだちょっと恥ずかしいね」とカメリアは杖を背中にしまうと控えめに笑った。
「2人っきり時でいいから…」
 
 椿はまばゆいばかりの太陽を仰ぎ見ると、歩き出した。このときの体温はあの天球を凌ぐ熱量があると確信していた。

126 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 19:52:45 ID:udUNNDQPy9
 そこから10分程度歩いているとカメリアは足を止め、「ここから先は獣道だね」と順路を外れた道ならぬ道を指し示した。そこには無造作に繁茂した木々の間に草が踏み分けられた場所があり、そこには足跡や動物の毛など、文字通り獣が通った後が伸びていた。その中には魔物も例外なく含まれている。

「もうすぐで、例の魔物の住処… 気合いを入れないと!」
「そうだね、一瞬でも気を抜くと危険な状態になることもあるから気を付けないと」

カメリアはしばし繋いだ手を眺めていたが、「ここからは手を離して行こう」と言うと指の緊張を解いた。
一方、椿は離された自分の右手を不満そうに睨んだが、これをカメリアに気取られるのを嫌い、「わかった、これだと戦いにくいもんね」ときわめて平淡な口調で言った。

127 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 19:53:19 ID:udUNNDQPy9
「うん、たださっきみたいにツバキちゃ…ツバキ!のフードの効果を受けない魔物も出てくると思うから私から離れないでね」とカメリアはいつも通り椿の名前をちゃん付で呼ぼうとしたが、先の言葉を思いだし強引に言い切った。
 その言葉に椿は頬がカッと熱くなるの感じたが、その恥ずかしさを誤魔化すように獣道へと足を踏み入れた。それと同時にポケットに入れた端末から透明化しているチモシーに『周囲警戒』の命令を与えた。
「もう …ツバキ、さっき言ったばかりだよ 私から離れないで」と後を追った。

128 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 19:53:54 ID:udUNNDQPy9
 歩き出した椿だが、1,2歩進んだ辺りである疑問が沸いてきた。それは恥ずかしさを隠すために考えたことだったが、もう一歩進むとそれが彼女のことを知りたいという気持ちも相まって恥ずかしさを上書きし、思考の大半を占めていく。

そして、「そうだ! カメリア」と好奇心と共に立ち止まり振り返ると、「カメリアが使う魔法って…一般的な魔法じゃないよね」と彼女の様子を伺いながら言った。そして、否定的な表情をしていないため言葉を続けた。

「前に貸してもらった本とか、基礎魔法論とかの本を読んでも電撃系の魔法は存在しなかったし、陽属性の魔法には副次的に電撃出たり、自然現象の雷を利用したりしてもそれをメインにしたものはなかったし、ボク気になるかも…」と疑問をカメリアにぶつけた。
それを受けてカメリアは少し考えていたが「うん、確かに 私の魔法は“現代魔法”ではないからびっくりしちゃうのは無理ないかも…」

129 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 19:54:19 ID:udUNNDQPy9
「現代魔法?」
椿は聞きなれない単語に疑問符を送ると、「それの詳しい話は歩きながらするよ」とカメリアは椿に歩み寄った。

「まず、私が使った魔法は“古代魔法”って呼ばれるものなんだけど、古代魔法の起源は先生曰く」

130 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 19:54:52 ID:udUNNDQPy9
― 人がまだ魔法という力を持っていなかった太古の時代、人はただ奪われるだけの存在だった。 それを憐れに思った人の神様が、仲の良かった龍の神様に助力を乞いその力の一端を分けてもらうことになった。 しかし、龍の力を行使するためには多大な力が必要で、それに耐えうるにはあまりに人はか弱かった。そのため龍の力は封じられ、人が虐げられる暗黒の時代が長く続いた。
人々が希望もなく細々と生きている時代、一人の賢者が現れた。その賢者は龍の言葉を操り、襲いくる魔物を幾度と退け人々の希望となった。そしてその賢者は龍の言葉を文字にして伝えると、まるで霞のように何処かへ行ってしまった。
その賢者が伝えた言葉が「龍術」と呼ばれるようになり、後に古代魔法と呼ばれる魔法に発展していった。 ―

131 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 19:55:17 ID:udUNNDQPy9
「と、いうのが私が先生に聞いた古代魔法の起源だよ」と言いながら、道の前にし垂れた枝を手で払いのけた。
「龍の力を使うなんて、すごいね でも何で今は使われていないの?」
「それもおっしゃっていて、曰く」

132 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 19:55:46 ID:udUNNDQPy9
― 大きな力を手に入れた人々だが、代を重ねるごとに秘匿化が進み、限られた人がその力と利益を独占するようになった。古代魔法は龍の言葉が理解できないと学んでも行使できないことも追い風となり完全に支配者と被支配者の二極化が起こった。

それからまた長い時間が経ち、その現状に憤ったある人は、龍術に対抗し大地に宿る属性の力を言葉にのせて行使する「属性魔法」を開発した。それは誰にでも扱えるため急速に発展を見せ、龍術は衰退の一途をたどった。そのため龍術を「古代魔法」、属性魔法を「現代魔法」と区別されるようになった。

今ではほとんどの人が属性魔法を行使しているため、古代魔法、現代魔法の区別をする必要がなくなり、その名前も廃れることとなった。 ―

133 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 19:56:33 ID:udUNNDQPy9
「これが…私が聞いた、古代魔法と現代魔法だね」と周囲を慎重に確認し、地面から飛び出た木の根を飛び越えながら言った。
「それをカメリアは使えるんだね さっき龍の言葉って言ってたけど、ティラミスちゃんと話していたのも龍の言葉なの?」
「そうそう、ここからは私の言葉でいうけど、ティラミスちゃんのお母さんから龍語を学んだんだ ただ、龍の言葉は人には発音ができないものもあるから、それを避けて発音できるものだけだけどね 例えば…」
カメリアは左手を前につき出すと素早く、「☆」と龍の言葉で詠唱をすると小さな光が起きた。
「カメリア… これは、光っただけ…?」
「ああ、これはね私たちの言葉で言うと“小さな光“っていう意味で、小さな電撃を手の内で破裂させる魔法だよ 主に虫を追っ払う魔法」と手をぶるぶると震わせ、「でも、これって内側で破裂させるから自分も食らっちゃうんだよね」と笑いかけた。

134 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 19:57:06 ID:udUNNDQPy9
椿はそれにつられ笑顔を見せると「あっ、やっと笑ってくれた! やっぱりツバキは笑っているところが一番かわいいね!」と嬉しそうに言った。
椿はあまりにも自然に言うカメリアに、恥ずかしがること自体が恥ずかしいと思い、少しうつむき「うん」とだけ言うと話題転換のために「あっ、そうだ… 龍で思い出したんだけど…」と切り出した。
「龍がどうしたの?」
「カメリア、前にジンジャーに聞いた話なんだけど“ドラゴン怪死事件”って知ってる」
「…? うん、知ってるよ なんでも色んな龍が何者かに殺されているっていうやつでしょ ティラミスちゃんも龍だから少し心配だよ」と眉をひそめた。
「その犯人とおぼしき人物を聞いたんだよ」
「そうなの!?」
「そう、犯人はねフードで顔を隠していて見えなかったらしいんだけど、ウェーブのかかった長い金髪で黒い鎧を着けていて、大きな尻尾が特徴的だったらしいって話だよ」と言い終わるとカメリアは椿の手を掴んで「すごいね! もしそんな人に遭ったらすぐに逃げることができるよ!」と嬉しそうに言った。

135 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 19:57:39 ID:udUNNDQPy9
そのとき、視界の端でスカートの裾が激しく動いているのも見えた。その尻尾のお陰で感情が分かりやすいと思っているが、それとは逆に彼女の表面しか分からないことにもどかしさも覚えた。
「…ボクはすごくないよ、ジンジャーとメイドさんたちの話を聞いただけだし…」
「そんなことないよ、それもツバキの力だよ」と椿のことをまっすぐ見て「だからね、もっと自信を持っていけばいいんじゃないかな? その方が私はもっと好きだよ」と柔和な笑みを浮かべた。
 椿はその笑顔と言葉がずるいと思った。カメリアに笑顔を向けられるだけで、わくわくしてしまう自分の単純さを含めて、彼女に言われるとできるような気持ちになってしまうような魔力があった。
「もう… カメリアのバカ…」それに逆らえないことへのせめてもの抵抗だった。

136 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 19:58:22 ID:udUNNDQPy9
「そろそろかな…」
カメリアは周囲を見渡しながら呟いた。
「ついに…例の魔物が住み着いている大木群があるところか…」と椿もそれに応じるとポケットから端末を取り出し、不測の事態に備えた。

 そこから少し歩いていると、急に視界が開け目の前に直径が10メートルはありそうな大木が現れた。そこから視線を上げるとその大木からは、幹の三分の一にも迫りそうな枝が伸びており、その生命力に椿は圧倒された。それが目に見える範囲だけでもそれクラスの樹木が林立している。
「すごいね…」と驚いている椿を横目に「確かに、これなら大型の魔物でも木の洞に住めそうだし、木の枝を伝っていけば素早く移動できるし いそうな雰囲気がすごいする」と口を開いた。
「そういえば、例の魔物の詳しい説明してなかったね」
「えっ!? いきなりだね、確かに聞いていなかったけど」
「デルラさんからの情報だけど、“それは、とても慎重で強いと判断した対象には姿を見せない 見た目は黒い蜥蜴のような姿をしていて、木の洞を住処にしている。夜には巣穴から這い出て、商人や一人でいる冒険者を襲う”って話だよ それで、どこにいるかを聞いたらここだって言っていたからここに来たんだよ」

137 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 19:59:32 ID:udUNNDQPy9
カメリアは背中から杖を取り出し、大木を手のひらでなぞりながら、「ごめんね」とつぶやくと魔法の詠唱を開始した。
龍の言葉と思しき言語を口にするごとに、流れる空気が逃げ場を失ったかのような、重苦しい空間がカメリアを中心に、歪んで見えるほどに幾重にも構築されていた。
椿は今まで見てきた魔法とは比べ物にならないほどの威力の魔法がこれから行使されると、張り詰めた空気にそれを感じ取っていた。手からはじんわりと汗をかき、ここに居たら巻き込まれてしまうと本能的に脳が危機を知らせてくれているが、その指令を無視し、その場で待機することを選択した。
念のために透明化したチモシーをそばに戻して抱きかかえた。

138 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 20:00:10 ID:udUNNDQPy9
 カメリアが最後の一句を言い終わった瞬間、張り詰めた空気に穴が開いたように音もなく強烈な光が噴出し、駆け巡った。
大木が軋みを上げ、流れる高電圧に耐えられなかった末端の枝からはパチパチと破裂する音が響き、中に含まれた水分が蒸発し湯気が上がっている。
 カメリアは木から手を離すと、残念そうに
「反応なしか…」とつぶやくと椿に笑いかけた。
椿は先の魔法により慣れたため、笑い返し「これ、すごい魔法だね 人間の言葉ではどんな意味なの」と質問するほどに適応していた。
「えっと、これはね詠唱部分を省略して…“焦がす雷”っていう魔法で、“雷の龍”の力の一端を行使する魔法だよ」と身振り手振りで説明を続ける、「それで、本来は遠距離から雷の槍を飛ばす魔法なんだけど、一部分詠唱を変えると雷が滞留する魔法に変化するからそれを使って、木に雷を流したんだよ」

139 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 20:00:50 ID:udUNNDQPy9
「…一部分を変えると、出力が変わってくる」
それを聞いた椿はプログラミングみたいだなと思った。そして、それがチモシーの改良に使えるとも思ったのでチモシーの背中からノートを取り出し、ペンを執った。

 椿が熱心に何か書いているのを「何してるの、ツバキ」と紙面を興味深そうにのぞき込んだ。
「これはチモシーの改良ノートだよ 見せるのは初めてだよね? これにいろいろ書き込んでいるんだよ ところで質問していいかな」とペンから視線を外さずに聞いた。
「いいけど…」
カメリアはまた慎重に周囲を見渡すと、「いいよ、なんでも聞いてね」と椿に向き直った。

140 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 20:01:34 ID:udUNNDQPy9
「まず、一つ目の質問だけど 龍術…古代魔法は“龍の言語を理解できれば行使できる”と言っていたけど、“理解できれば”とはどの程度なの?」
「う〜ん… 理解の程度かぁ…」と難しい質問だとばかりに小さなため息をつきしばらくうつむくと「えっと… 例えば今私が泣くとするでしょ、それで声を上げて泣いたり、声を押し殺して泣くかみたいな違いが言葉に含まれていて、その時の気持ちを再現して使うみたいなイメージかな…たぶん…」と最後にしどろもどろになりながら答えた。
「うん、感情でコントロールするんだね ありがとう 二つ目の質問だけど、古代魔法は攻撃の魔法だけなの?」

 カメリアはこの質問は簡単だというように得意顔になると、「いいや、と言うか古代魔法は攻撃系の魔法より、補助魔法の方が一般的に使われていたものだからね、例えば探知魔法の“灯”や鎮静魔法“息吹”みたいな無詠唱で使う魔法なんかもあるんだよ これが使えることが一人前の証だったって先生もおっしゃっていたよ ま、まぁ…私は補助系の魔法が使えないから関係ないけど…」と結局最後はしどろもどろになりながら答えた。

141 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 20:02:06 ID:udUNNDQPy9
「…無詠唱? でも古代魔法って、龍の言葉で魔法を使うんだよね、なんか矛盾してない?」
「ん? いやいや、矛盾はしてないよ 龍の中には言葉を介さずに、テレパシーで他者と交信をしているらしくて、心で言葉を伝えるという解釈だから矛盾はないんだよ わりと補助魔法の半分くらいはこの方式らしい」
「うん、ありがとうカメリア」
椿はノートを閉じると、チモシーの背中に戻し、<透明>モードを命令した。

142 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 20:03:21 ID:udUNNDQPy9
「どういたしまし…ん!?」
カメリアはいいかけた言葉を喉の奥に押し込むと、耳をピンと張り周囲の音を聞きだした。
「えっ!?ど…!?」と椿は口を開こうとしたが、カメリアの手に制止されその後の疑問を口にすることが出来なかった。その代わりに視線で彼女に信号を送ると、「件の魔物かもしれない、魔力の気配が全くしなくて もう、すぐそばにいる」と聞こえるギリギリの早口で言った。彼女の耳がしきりに動き、緊張が伝わってくる。
椿はカメリアを支援しようと、端末に命令を送ろうと顔に近づけたが、それは草むらから飛来する物体によって阻止されることとなった。
いち早く飛翔体に気づいたカメリアは椿を突き飛ばし、間一髪で当たらずに済んだことを確認すると間髪入れずに、電撃の魔法を繰り出した。

143 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/19 20:04:00 ID:udUNNDQPy9
突き飛ばされた椿は、すぐに崩れた態勢を元に戻すと、端末からチモシーに<戦闘>と命令を下した。しかし、端末からは反応もなく視線をチモシーがいる場所に運ぶと、機能が停止したようにその場に倒れた姿があった。破損状態は目視では確認できないが、先の飛翔体が当たり、砕けと思しき破片が周囲に散らばりキラキラと輝いていた。
 椿は真っ先にチモシーに近づき、破損状態を見ようとしたが、「まって!」とカメリアに止められた。
「いま魔法を打ったけど、手ごたえがないんだ それに、あの飛んできた物体なんかまずくない? 私のそばにきて!」と大声でいった。それに、椿はチモシーの元に行きたいのをグッと堪え彼女の傍に行くと
「ツバキ! そこの茂みに魔法を撃って」と言ったので、すぐさま土魔法の『ロックブラスト』を唱え、石の塊を茂みに打ち込んだ。
その瞬間、草陰から全身真っ黒で巨大な蜥蜴のような魔物が飛び出し、正面から魔法に突っ込んだ。すると、魔法は魔物に当たる前に空中に霧散してしまった。

「これって魔法が効いてないよね… それに相当私たちナメられてる」と目の前の状況を鑑みながら言うと、手に持っている杖を握り直し、戦闘態勢に移った。
目の前の魔物は悠々と獲物を見定めるように歩いている。

☆☆☆

144 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2023/06/22 11:40:34 ID:6Olb0bkJ2W
けっこう長いssであんハピ♪の二次創作と書いてあるのに他のあんハピ♪キャラが登場しない。あんハピ♪の長編二次創作なんだから他のあんハピ♪キャラを登場させてほしい。

145 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/22 20:50:59 ID:MEQe4fVdzu
コメントありがとうございます

あんハピ♪のキャラクターをもっと出してほしいとのことですが、すでにほかのメンバーが登場する話を考えているのでお待ちください。

ただ、本作『椿は香らない』は椿しかあんハピ♪のキャラを出さないと決めているので、本作での他のキャラの登場は期待しないでください。

146 名前:カレル[age] 投稿日:2023/06/23 19:55:17 ID:wKjHRQFoBC
「ツバキ… いま作戦を考えたんだけど…」と目の前の魔物に聞こえないようにこっそりと耳打ちをした。
「…! 何!? 電撃も効いていない、ボクの魔法も弾かれる こんな相手に何かをできる作戦があるの? こんなの逃げたほうが…というか逃げないとまずいよ!」
「だいじょうぶ ツバキの安全は保証するから 話だけでも聞いてよ」と余裕そうな調子で言っており、魔物もまだ襲ってくる気配がないので、椿は「もう…! でなんなの?」と耳を傾けた。
「やつがいつまた襲ってくるかわからないから手短に言うけど あの魔物は私たちを完全に軽く見ている、だからそれがチャンスなんじゃないかって思うんだよ それを利用して私が“とっておき”の魔法を叩き込むから時間を作って欲しいんだ」
「時間を作るって言ったって、ボクの魔法は通らないし…やっぱり逃げよう!」
「ツバキ! これを」と発言をかき消すように鞘に入ったナイフと結晶をポケットから取り出し渡した。

147 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/23 19:55:46 ID:wKjHRQFoBC
「…これは?」
椿は手渡された小型のナイフと結晶を手の内で転がしながら言った。結晶の中には赤い炎が揺らめいており、これにも転送結晶のように何かの魔法が込められているのだと思った。
「これは、身体強化の魔法が封じ込まれた結晶だよ 使い方は強く握るだけで、これで身体強化して倒せたら御の字だけど私もツバキもまほうつかいタイプだし、どうにも未知の相手だし、これを使って15秒引き付けて欲しいんだ くれぐれも無茶はしないでね」と言うと、そこから一歩後退して詠唱を始めた。

148 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/23 19:56:13 ID:wKjHRQFoBC
いきなり渡されたものに椿は戸惑い、カメリアと魔物を見比べて最後に手に持った結晶に目をやると
「…もう! なるようになれ!」と大きなため息をつくと結晶を強く握った。
すると、中の炎が勢いを増し結晶の檻を突き破り、手へと燃え移った。それに驚き手を離そうとしたが熱さを感じなかったため、ギリギリのところで踏みとどまり、そのまま燃えていく体を静観した。
「!? 力が湧いてくる…それに」と燃え盛る焔を眺めながら呟き、顔を上げると落ちてくる木葉がスローモーションに見えることを発見した。
目の前の魔物もほとんど停止しているように見えたがよくよく観察すると、こちらに目掛けて今にも飛びかかりそうな体勢をとっていることに気がついた。そのため、それを阻止するために貰ったナイフで攻撃をしようと考えた。

149 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/23 19:57:15 ID:wKjHRQFoBC
 椿はナイフを右手にしっかりと持ち、魔物に向けるとその姿勢のまま突撃し切りつけると、すぐさまそこから離れた。
 十分な距離を取ってから、振り返ると大きく体勢を崩した魔物の姿があった。その魔物は意味がわからないというように低い唸り声をあげているが、切りつけた所に目立った外傷はなく本当に驚いているだけのように見えた。震える右手を左手で押さえながら、「硬すぎ…」と弱音をこぼしたが、魔物の憎悪はこちらに向いていると確信したので、このまま魔法の効果が切れないうちにすぐさま次の行動に移った。

150 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/23 19:58:02 ID:wKjHRQFoBC
今回も同じように接近し、今度は体勢を崩し垂れた頭に刃を振り下ろした。
しかし、「ガキーン」と金属同士が弾き合うような音がしたかと思った刹那、銀色に輝く大振りの欠片が明後日の方向へと飛んでいった。それが、ナイフの刃だと身体強化の魔法により即座に認識し、本能的に危機を察知したため、地面を蹴って待避した。
待避した直後、およそコンマ一秒後に先ほど椿がいた頭の方向に黒い尻尾が打ち付けられ、地面を破壊し土煙が上がった。
刃の衝撃を利用しての尻尾での攻撃。まるで、あらかじめ攻撃を置かれていたような対応に肝が冷える思いをしたが、カメリアの方に視線を向けると、詠唱も終盤に入っているようで謎の黒い光を溢れさせている姿が映った。
それに、「もう一息だ」と意思とは逆に震える体に鞭を打ち、最後の一撃を入れようと体勢を整えた。

151 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/23 19:58:34 ID:wKjHRQFoBC
 今回は手持ちの武器がない状態、まともに引き付けられるかの確信がないため、どうすればカメリアにあの魔物の脅威が向かないかを考えた。
何か替わりとなるものを探したところ、魔物の攻撃により機能停止したチモシーが二半歩先に転がっているのが見えた。それを使おうと考えた椿はチモシーを拾い上げると、両後ろ足をまとめて持ちメイスのような鈍器とした。このときの椿はチモシーが壊れてしまうことも頭に入っておらず、ただ新しい得物を手にしたことによる安堵を感じていた。
「おまえを倒す!」
そのまま野球選手よろしく、武器を魔物に向けると不敵に笑った。それに自分でも理解できないほどの高揚を感じていたが、これが魔法の副効果であることには気がつく由もなく、攻撃に移った。

152 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/23 19:59:37 ID:wKjHRQFoBC
 椿は先の魔物の反撃を考慮し、フードを魔物に向かって投げ捨てると、側面から攻撃を入れようと回り込んだ。魔物はフードに気をとられ、椿を見失いキョロキョロとしている隙を突き、渾身の力を込めて横っ腹をかち上げた。
 魔物は前足が1メートルほど上に押し上げられたが、後ろ足は地面を捕らえており吹き飛ぶようなことはなく、大きくよろめくだけにとどまった。そして、怒りのボルテージが上がったように一対の赤く光る瞳がこちらを凝視していた。
「あははっ… しっかし、チモシーは頑丈に作ったけど、君も頑丈だね!」と対抗するように言うと、浮き上がりがら空きになった腹部に向かってもう一度、フルスイングで攻撃を叩き込んだ。
 
 相当の速度で振り抜かれた一撃は比較的軟弱な腹部の鱗の一部を破壊した。そして、柔らかな表皮の部分まで衝撃が到達し、その勢いのまま魔物の体は空中に放り出され、大木の幹に叩きつけられた。

153 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/23 20:00:29 ID:wKjHRQFoBC
 カメリアは魔物が叩きつけられるタイミング魔法の準備が終わっていた。そのため、椿に待避の指示を大声で伝えると、すぐさま近くに来てくれた。
「ぼ、ボク… あの魔法はなんなの チモシーも」と魔法の効果が切れたようで、泣きそうな表情で半壊のチモシーを差し出した。しかし、カメリアも魔法の発動で余裕がないため、「それはあと!」と言い捨てると手を前に突きだした。

そのとき、昔の会話を思い出していた。

154 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/23 20:01:04 ID:wKjHRQFoBC
〜〜〜

「ミラトリアさん、どういう風の吹き回しですか?」

「カメリア、私の息子のティラと旅に出てほしいのじゃ」

「何でですか? ティラミスちゃんはまだ子供だし、過酷な旅になりますよ」

「ティラミスが子供なら、お主もまだ子供であろう」

「むぅ!私はもう16歳なんですから、大人ですよ!」

「ははっ! そうじゃったな ただ、ティラの修行も兼ねているからの、それにもし連れていってくれたのなら、私のとっておきを伝授してあげるがどうか?」

「えっ!? ミラトリアさんのとっておき…」

「そうじゃ、あやつに傷を与えるほどのとっておきじゃ」

「ん〜 わかりました 教えてください!」

「話が早いようじゃの では…」

〜〜〜

《ミラトリアさん…まさかこんなに早くあなたの「とっておき」を使わせてもらうなんて思っても見ませんでした まだ私には大きすぎる力ですが、ミルルスの恥とならないように力をお貸しください》

155 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/23 20:02:02 ID:wKjHRQFoBC
 そう心のなかで唱えると、光を右手に集中させ始めた。

 それが十分に魔力が集まったことを確認すると鋭く「滅却しろ」と叫んだ。すると手先に集まった光が放出されはじめた。それは七色の光を放ちながら拡散し、周囲の触れたものを溶解または炎上させている。融解した地面が陽炎のように揺らめき、放たれているエネルギーの大きさを端的に表している。
 
 カメリアは乱れ飛ぶ光を制御しようと右手に力を込め、だんだんと魔物へと照準を絞り、光を収束させていっている。収束前の光は魔物に当たっても弾かれるだけで、効いているような様子がなかったが、光の軌道が狭められるにつれて鱗ではもはや無効化できないほどのエネルギーが魔物に注がれはじめた。光の束がほぼ線の細さになる時には水蒸気によってほとんど回りの景色が見えなくなっていたが、光は屈折せずに対象に注がれ続けていた。

椿はこれを花火を見るような気持ちで放たれる光を眺めていたが、視線を上げると苦悶の表情が見えた。彼女のために何かしようと考えたが、今は何かすることが邪魔になってもしまうと結論をつけたために、黙って見守ることしかできなかった。

156 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/23 20:03:08 ID:wKjHRQFoBC
 放出された光がだんだんと弱くなり消えると、それと同時に持っている杖に体重を任せカメリアは膝を付いた。

「カメリア! だいじょうぶ?」と手を差し出すと「ははっ… だいじょうぶ…」と手を取り立ち上がった。
「うん… ありがとう あの魔物はどうなったの?」と煙の先を見ながら言った。
「あんな攻撃を食らって、無事な訳がないから、たぶん倒せてると思うよ」と期待を込めて言ったが予断を許さない状況なため、直ぐに逃走の体勢がとれるようにカメリアの腕を持った。

 木々に滞留していた煙がだんだんと周囲に拡散していき、目の前の状況がわかるようになってきた。そして、あの魔物の末路を確認しようと二人は目を凝らしたがそこで予想だにしない現実が飛び込んできた。
 黒い魔物が五体満足で残っていた。腹部は鱗が破壊され、頭部は高出力の魔法を受けた鱗が一部溶解し、未だ燻っている。融解した鱗は凝固により元の形から禍々しいまでに捻れ変形しており、その奥にある赤い瞳は変わらず二人を睨んでいた。

この現実を受け入れるために椿たちは少し時間がかかったが「う、うそ… 立ってる…」と信じられないと言うようにカメリアと目を見合わせた。
「…威力が足りなかった もう魔法も撃てないし逃げるしかないかな…」
「そうだよ! 早く逃げないと!」と腕を引きながら言ったが、「ツバキ!」とその言葉を遮った。

157 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/23 20:03:48 ID:wKjHRQFoBC
「…ここでお別れだね」と懐から転送結晶を取り出した。
「カメリ…!?」
 そういいかけると体が光に包まれた。椿はそれが転送の魔方陣だと認識したので安堵したがカメリアが先ほど言った「お別れ」という言葉が頭から離れなかった。まるで今生の別れだとでも言うような寂しそうな表情で言われたそれは、とても嫌な予感がすると感じ取っていた。
 
 もう一度カメリアに確認を取ろうと口を開こうとしたが、視界が完全に塞がれてしまい声を出すことは叶わなかった。

………

158 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/23 20:04:50 ID:wKjHRQFoBC
「もうツバキは家に帰れたかな?」とカメリアは転送陣の残滓が残る空白を愛おしそうに眺ていたが、もう未練がないと言うようにため息をつくと目の前の手負いの魔物に対峙した。
魔物は先ほどのダメージが回復したのか、すでに攻撃の予備動作に入っている。

《はぁ… 私死ぬのかな どうせならあの人の唇くらい奪ってやればよかったかな、そうしたら振り向いてくれたのかな はぁ…ティラミスちゃんは私無しでも大丈夫かな、ツバキに託したけど仲良くやってくれるといいな それに故郷のお母さんやお父さん、ミラトリアさん、クロエちゃん…みんな元気でやっているのかな はぁ…結局ウキさんやコハネさんへの恩返しもできてないし いろいろ悔いが残るな… でもツバキが無事に帰っているなら少しでも慰めになるな》

大きな爪が頭を目掛けて振り下ろされた。

《でも、死にたくないな》

☆☆☆

160 名前:カレル[age] 投稿日:2023/06/26 20:00:34 ID:pAszFQrBK2
 椿が再び目を開けると、そこは見覚えのあるフローリングの上だった。
「ここは?」と周囲を見渡すと、またも見覚えのある設計図やモニターの群が目に入ってきた。
《ボクの部屋だ!》
そう認識すると、脇目もふらず部屋から飛び出した。
「椿様?」と廊下ですれ違うメイドたちは皆不思議そうな表情をしており、「お帰りになっていたのですね」と口々に声をかけてくる。しかし、椿はそんな言葉は一切耳に入っておらず、息を切らせながらジンジャーの執務室を目指した。

廊下の角を数回曲がった先に、扉の両端に鎧が置かれた荘厳な扉が見え、その扉に駆け込んだ。

161 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/26 20:01:09 ID:pAszFQrBK2
 部屋のなかには、書類を真剣な面持ちで目を通しているジンジャーと、その隣で粛々と書類の山をまとめているメイド長の姿があった。二人は入ってきた椿の存在に気がつくと、「ジンジャー様は重要な公務の真っ最中ですよ、椿さん」とメイド長が怪訝な表情で椿を追い返そうとしたが、ジンジャーが右手を上げ無言で制止した。メイド長は「はい… ジンジャー様の命令とあらば」と言い、部屋を出る前に椿とジンジャーに一礼をすると、そそくさと出ていった。

162 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/26 20:02:11 ID:pAszFQrBK2
 ジンジャーは回りに誰もいないことを確認すると「椿、緊急の要件みたいだが何があったんだ?」と先ほどの雰囲気とはうってかわって、優しさを覗かせた表情になった。

「ジンジャー、助けて欲しいの ボクの友達が里の近くの西の山で、魔物と戦って、ピンチになって…っ!」と一気に言うこと走らせたため、言葉が喉につまってしまった。
「里の近くの西の山…? わかった 聞いているなメイド長、準備をしてくれ!」とジンジャーは大きな声でそういうと、待っていましたとばかりに扉が開き銀のトレーにメリケンサックを載せたメイド長が現れた。

 困惑する椿を尻目に、メイド長はメリケンサックを渡しジンジャーに耳打ちをすると、「すまないな… メイド長、留守は任せる 椿も道の道案内として来てもらうぞ」と言うと、椿を担ぎ走り出した。
「いいえ、ジンジャー様の為なら火の中水の中ですわ〜」
椿にはその言葉がドップラー効果で低音に聞こえた。

163 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/26 20:02:59 ID:pAszFQrBK2
 ジンジャーと担がれた椿は中庭を目指し、廊下を高速で移動している。
「じ、ジンジャー なんなの!? いきなり過ぎて理解が追い付かないんだけど!」
「ん? 何って、椿の友達を助けに行くんだろ そのために転送門まで1秒でも早くいきたいからな」と息も切らせず走りながら答えた。
「…何も説明していないのに、行ってくれるの?」
「なにいってんだ、助けるのに理由なんかいるか? …っと、流石だなメイド長、もう転送門の準備が完了している 」と中庭に設置された転送門からは神秘的な光が出ておりそこにいるメイドたちが旗を振って誘導している。
二人はその光へと飛び込んだ。

164 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/26 20:03:45 ID:pAszFQrBK2
「よしっ! 里に到着だな」とジンジャー周囲を確認しながら言った。そして、いきなり転移門から現れた七賢者に驚いている人々を尻目に飛び上がり、里の空き地に着地した。そして、椿を担いだまま強化魔法の詠唱を開始した。


―超越の鋭さと速さを身に宿せ!『アサルト・サンフレア』―と唱え、そして矢継ぎ早に ―更なる速さを我が身に『アクセラレーション』と唱えた―


詠唱が終わると、担いだ椿を地面に下ろした。魔法の詠唱の際に密着していたため、椿の体からも光が飛んでいる。

「椿、今から西の山まで飛ぶから私に捕まってろよ」と言うと抱きかかえ、腕を首に回させる、所謂お姫様だっこの体勢をとった。これまでの流れが一瞬で目も瞑っていたのですんなりと受け入れた。
「よしっ! じゃあいくぞ!」と言うと、ジンジャーも目を閉じ脚に力を込めた。すると、地面に放射状の亀裂が走りだし、空気が震えだした。その亀裂が空き地の四隅に波紋すると、開眼をし、力の限り地面を踏み抜き跳躍をした。

165 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/26 20:04:39 ID:pAszFQrBK2
 空気を裂く音が耳もとにうるさく話しかけてくる。
「椿、目を開けてくれ ここは空だ」と移動音とは別にジンジャーの声が聞こえ、椿はそれに応じて目を開けるとすぐそばで飛ぶ鳥と高速で後方に過ぎ去る景色が飛び込んできた。
「わっ!? と、飛んでる!」
「わっはっは! そうだ、気持ちいいだろ、空は自由だ 教えてくれ、何でその友達はピンチになったんだ?」
「…ボクが悪いんだ、友達…カメリアが受けた依頼に無理やり付いていきたいって行って、その魔物に負けて、逃がしてくれたの」
「ほう…お前の行動は後できっちりと話してもらうが、なかなかいい友達に巡りあったようだな、私も鼻が高いよ」
「うん…でも…」
「でも? なんだ?」
「なんでもない!」
椿はカメリアと別れたときの表情を思い出したが、不安を払拭するように力強く言うと正面に見える山の景色を眺めた。

166 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/26 20:05:56 ID:pAszFQrBK2
「あそこの山の高い木が生い茂っていて一部変色しているところが魔物と戦った場所!」と目的の場所を興奮気味に指さした。
「わかった、西の山の山頂に降りられるように地面を蹴ったからすぐ着けるぞ」と椿を落ち着けるようにゆっくりと言うと、「なぁ、そのカメリアって子はどんなやつなんだ」

「えっ?…と、カメリアは明るくて強くてボクとは正反対みたいな感じかな」
「へぇ! それは私も会うのが楽しみだな」
「そうだ! ジンジャー、さっき目を瞑ってるときに『アクセラレーション』って聞こえたけど、ジンジャーも使えたんだね」
「ああ、それな カルダモンにな教えてもらったんだよ、あいつのようにはいかないところもあるが、一応基礎は修めているつもりだ」

「強いジンジャーが、速さまで手にしたら まさに鬼に金棒…」
「わっはっはー! そうだな、今バットは持っていないが、この鍛冶師ポルカに依頼したメリケンサックがあるから、安心していいぞ!」と豪快に笑った。

椿はその様子に、少なからず残っていた不安が吹き飛んで行くような気がした。そして、カメリアにあったら助けてくれたお礼を言おうと意気込んだ。
「もう山頂につくから、目と口は閉じてろよ できるだけ衝撃は吸収するが、油断してると舌を噛むからな」と着地の体勢になりながら言うと弾丸のように地面に着地した。

167 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/26 20:06:30 ID:pAszFQrBK2
着地した瞬間、バーンと大きな音を立て地面が割れた。ジンジャーはその衝撃を膝でうまく殺すと、
「ここからは危険だから、私の背中に移ってくれ」と言うと抱えた椿を背中に移動させ、一気に進行方向を変え、指し示した方へ飛び出した。
 
ジンジャーは椿を負いながら森のなかをひた走っている。倒木や岩を軽やかな足取りで避け、さながら曲芸のような華麗さで進んでいる。流れるように進んでいくと、一瞬何かに気づいたような声を上げ、椿もそれに疑問符を上げたが「いや、勘違いだった」と言ったのでこれ以上は聞くことができなかった。

168 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/26 20:07:08 ID:pAszFQrBK2
その時、ジンジャーは風に乗って微かに漂う血の臭いを感じ取っていた。それに反応して声を上げたが余計な心配をかけるのは今の椿には良くないと考えたため、言わなかった。だが進むごとに濃くなっていく臭いに嫌な予感を感じ、地面を蹴る力を強くした。

 その時、椿も匂いを感じ取っていた。緊張によって嗅覚が鈍っていたが、背中で揺られるうちにシトラスのような爽やかな香りがすることに気がついた。いつもはジンジャーの香りは遠くからはほんのりと香る程度だったが、ジンジャーに負われているため良く手入れされたふわふわのブロンドの髪からくる波動に直接癒されていた。

椿はカメリアが無事でいると信じている。

169 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/26 20:08:28 ID:pAszFQrBK2
ついに、二人は魔物と戦った場所に到着した。
「ここか… 見たところ最悪の事態には陥っていないようだな ここの近くにいるのか?」と地面に飛び散った少量の血飛沫と木の陰に伸びた血痕を見ながら言った。一方、椿はジンジャーのボリュームのある髪に邪魔をされて前が見えなかったため「ホント!」と期待を込めた声色で言った。

「あぁ… まぁ、おまえの目で確認したほうがいいかもな… 覚悟して見てくれ たぶん大丈夫だ…」
「なあに?ジンジャー 歯切れが悪いね 大丈夫なんでしょ」といいながら降りたがすぐに口をつぐむことになった。

「えっ!? ヒッ! ち!ち! 血!! ジンジャー!!! カメリアは大丈夫なの!!??」とすがり付いたが、ジンジャーは「落ち着け!椿、この出血量は命に別状がある状態ではないから落ち着いてくれ!」と抱擁をし落ち着けようとした。
「で!でも! でも!!」

「大丈夫!大丈夫だ、 深呼吸をして落ち着いてくれ」
ジンジャーはそう繰り返すと抱きしめる力を強めた。それは適度な力で、これが一番落ち着くと信じて。すると、椿の乱れた呼吸もだんだんと落ち着き、ついには「落ち着く匂い お日さまみたい」と小さく呟くまでに回復した。
「ハッ! 私の体臭が椿にどんな効果があったかわからんが落ち着いてよかった」

ジンジャーは抱擁を解くと、椿に笑いかけた。そして、真剣な顔に戻ると「さて、この血痕をたどれば十中八九カメリアの元に続いていると思うから、迎えに行くぞ! 早くしないと他の魔物に襲われてしまう 私から離れるなよ」と言うと血の跡を辿り進んだ。

170 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/26 20:09:00 ID:pAszFQrBK2
二人は血痕を辿っていくと、これがさらに奥に続いていた。
「ううむ、どこまで続いているんだ 椿、どのくらい時間が経っているんだ?」
「ボクが屋敷に飛ばされてすぐにここに連れていって貰ったから、5分も経っていないと思うけど」
「じゃあ、そこまで離れていないな 怪我をしながらの移動なんてこの時間じゃ100メートルかそこらだ 森なんていう足場の悪い場所だ、それに血痕がほぼ乱れずについているということは歩いているということだ 魔物に追われて逃げていたらもっと不規則になるだろうし 近くにいるだろうな」

「そうだよね… カメリアー! 近くにいるなら返事してー!」と呼び掛けた。何度も声が枯れるまで言ったが返事は聞こえない。しかし、ジンジャーは「ん? 何か音が聴こえる」と呟いた。

171 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/26 20:09:28 ID:pAszFQrBK2
「ホント! ボクには聞こえないけど!どこから聞こえてるの?」
「あ、あぁ… 微かに聞こえたがここから下って洞窟か?反響しているような音がするな」と獅子の耳をしきりに動かしながら言った。

「えっ、この坂の下? でも血痕は道なりに続いてるけど… ううん…ジンジャーが言うなら間違いないよね」
「そうと決まったら下に降りるぞ 私に掴まってくれ」
「うん!」

172 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/26 20:10:19 ID:pAszFQrBK2
「おっと、その前に… オラァッ!」と近くの木おもむろに近づくと渾身のストレートを幹に叩き込んだ。すると木の幹に風穴が空き、その隙間を支えきれなくなった木はバリバリと音を立てて倒れた。その木を倒れる前に掴むと先端に手刀を叩き込み、手で抱えられるサイズとした。そのまま木の中心に手をかけ、豪快に縦に裂くとソリのような形状とし小脇に抱えた。そして、そばで驚いている椿も抱えると坂を滑り降りた。

173 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/26 20:10:57 ID:pAszFQrBK2
坂をソリで滑るなか、椿は口を開いた。
「ジンジャー、あれって素の力?」
「ははっ! ああ、特に魔法とかは使っていないぞ、鍛えればそれくらいのことは余裕だ ただ、さすがにさっきの里からの大ジャンプは自己強化しないと不可能だがな」
「ボクは強化魔法を使ってもあんな大木、傷ぐらいしかつけられないよ」
「そうでもないぞ、私も子供の頃は…… この話は後でいいか そろそろ下に着くぞ」と開いた口を閉じた。

174 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/26 20:11:27 ID:pAszFQrBK2
「よーし、到着だ やっぱり洞窟はあったな」と担いだ椿を下ろしながら言った。

「カメリアー! ここにいるー? いるなら返事してー!」と腹に力を込めて言ったところすぐに「えっ、ツバキ!?」と困惑したような声が反響して聞こえ、「すぐ向かう」と続いて聞こえた。
しばらくして、足音が近づいてくるのがわかった。コツコツと中の空洞が広いのか足音が異様に響き、その後姿が見えてきた。その姿は土と草にまみれているが、カメリアのトレードマークである獣の耳と金髪が輝いており、間違いなく彼女であった。
その姿に椿はいてもたってもいられす飛び出した。

「うわぁー!! ガメ゛リア゛心配しだんだよ゛ぉ!! 無事そうでよがっだぁ゛」と抱きついた。
「…心配かけてごめんね」と泥だらけの手で椿に触るのを憚って「うん、ありがとうツバキ」と言うだけに留まった。

その再会を見届けたジンジャーは真剣な表情になり「感動の再会に水を差すようで悪いがカメリア、どうしてこうなったのか教えてくれ」といいながら歩み寄った。
「えっ!? じ、ジンジャー様!?」と突然の邂逅に驚いているカメリアだが、ジンジャーは冷静な声音で質問を繰り返した。

☆☆☆

175 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2023/06/26 23:23:37 ID:cyKYy10PeV
椿がジンジャーを呼び捨てにしているけどきららファンタジアで椿はジンジャーをさんづけで読んでいるし性格的に自分より目上の人間を呼び捨てにはできないと思います。

176 名前:カレル[age] 投稿日:2023/06/26 23:40:39 ID:pAszFQrBK2
>>175
コメントありがとうございます

そうですね、ただ同じ家に住んでいるのなら家族同然でしょうし、ジンジャーが「呼び捨てで読んでほしい」という要望を受けて…みたいな解釈なら違和感は最小限になるはずなので、苦しいですがこれで納得していただけると助かります。

それか、椿に「ジンジャー」と呼んでもらいたいジンジャーさんみたいなSSをつくります。

177 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2023/06/27 00:00:49 ID:cyKYy10PeV
ジンジャーの屋敷にはたくさんのメイドがいるわけで、そのメイドたちも同じ家にすんでいるわけで、同じ家にすんでいるたくさんのメイドの中の一人をジンジャーが特別扱いするのはちょっとと思います。

178 名前:カレル[age] 投稿日:2023/06/27 05:33:14 ID:pAszFQrBK2
そういった細かいところは雰囲気でお願いします

179 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2023/06/27 06:04:34 ID:cyKYy10PeV
ジンジャーの館のメイドたちはみんなジンジャーのことが好きでジンジャーが椿を特別扱いしたら椿に反感を持つメイドが現れそうな気がします。

180 名前:カレル[age] 投稿日:2023/06/27 20:34:37 ID:/tOaEZLVpt
「は、はい! え、えっと…どこから話せば」
「おっと、主語が抜けていたなすまない 椿にお前と別れる前の顛末は聞いたから、椿と別れたあとの話を聞かせてほしい 見たところお前に傷は無さそうだし詳しく聞かせてくれ」
「はい… あれは魔物に攻撃される直前…」

181 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/27 20:35:20 ID:/tOaEZLVpt
―――

カメリアは目を閉じて、魔物の攻撃を受け入れる覚悟を決めていた。その表情には清々しささえあるような色が出ていたが、その奥には別の色も覗いていた。

魔物の爪が振り下ろされる瞬間、草陰が揺れ何かが飛び出した。それは一瞬でカメリアと魔物の間に躍り出てその攻撃を受け止めた。またも金属と金属のぶつかるガキーンという音がし、同時に鉄の臭いと水が滴る音が聞こえた。
《だ、誰?》
カメリアは目を開き、助けてくれたものの正体を認識した。
ウェーブのかかった金髪、黒い鎧、そして逆光で判別しづらいが獣の耳がピンと張っているように見えた。その人物は、先程椿がいっていた「龍殺し」の容姿と酷似していた。


https://kirarabbs.com/upl/1687865720-1.jpg


182 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/27 20:36:12 ID:/tOaEZLVpt
“龍殺し”は魔物の攻撃で傷ついた左手を庇いながら武器を鞘にしまい、握りこぶしをつくると、魔物に向かって拳骨を叩き込んだ。攻撃の予備動作無しで放たれた攻撃は一瞬で魔物の顔面に到達し、バリバリと音を立てて変形した鱗を剥がし10メートルほど吹き飛ばした。

龍殺しは「チッ、浅かったか」と呟いた瞬間に、もう一度攻撃を叩き込もうと地面を蹴った。
吹き飛んだ魔物は“龍殺し”に危機を抱いたのか、「グ、グォー…」と降参するような鳴き声を上げた。だが、龍殺しはその声を無視し距離を詰めると、空気が揺れるほどの一撃を放った。

しかし、一撃が顔面に到達する前に、魔物の姿が煙のように忽然と消えてしまった。
「はっ? どこ行ったんだ… クソッ、雑魚が! アルメリアを食い殺したクソドラゴンに似ている奴だったのにっ!」と振り上げた拳を納められずに騒いでいたが、一通り罵詈雑言を吐き終わったのか肩の力が落ち、カメリアのほうに振り返った。その瞳は高貴なに濡れていた。

カメリアは何を言われるのかと身構えたが、先程の荒々しい感じとは違い、優しそうな表情で落ち着いた雰囲気をまとっていた。
「君、大丈夫だった? 怪我はない」
「…は、はい!で、でもお姉さんのほうが怪我をしています! 洗って包帯を巻かないと」
「ロザリアよ」
「はい?」

「ロザリア、私の名前よ 包帯はいいわ 魔法で回復できるし、爪に毒も含まれていたみたいだし、いまは出血していたほうが都合がいい」
「……そうなんですか えっと、私はカメリアです」
「椿か…、いい名前だね…」とロザリアは懐かしそうに言った。
「…えっと、ロザリアさん すぐにここから離れましょう」
「ええ、そうね 一応安全な場所はあるから案内するわ」
ロザリアはそう言うと、カメリアのてを引いて歩き出した。彼女の足取りは確かなもので、毒が回っているというのも信じられないほどだった。

―――

183 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/27 20:37:01 ID:/tOaEZLVpt
「これが、ツバキちゃんと離れたあとに起きた顛末です」
「…… わかったが、解せないことがある 答えてくれ、お前は死ぬつもりだったのか?椿を庇って」とジンジャーは恐ろしいほど冷淡に言った。しかし、その瞳は激しい怒りを宿して震えていた。

椿はそれに意を唱えようと口を開いたが、「椿、これはカメリアに聞いているんだ、すまないが少し下がって口を挟まないでくれるか あと、私が言った言葉、撤回させてもらうかもしれないからな」と直接的な威圧感こそ覚えなかったが、それと同等若しくそれ以上のオーラが感じ取れた。それは背中に氷を押し当てられるような感覚で否が応にも、
距離をとり、カメリアの言葉を待つしかなかった。

当のカメリアは痛いところを突かれたように、片目を閉じ震えていたが決心がいったようにジンジャーの目を見つめると「はい! 私はツバキが助かってほしい一心…でした」
「そうか、なら最後の質問だ 魔物の攻撃が来た瞬間、お前は何を思った?」とより一層冷たさを纏った言葉をぶつけた。

184 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/27 20:37:57 ID:/tOaEZLVpt
カメリアはその質問に困惑していたが、答えが決まったとばかりに椿に微笑むと口を開いた。
「はい、 私は家族,友達,先生のことを考えていました そして、それが心のなかで大きくなって、後悔が募って、死にたくないって叫びました…」と言うと力が抜けたように地面にペタンと座り込んだ。
それを顔色一つ変えずに聞いていたが、「ほう…… あぁ、 椿、すまなかった、さっきの撤回宣言は撤回させてもらうよ、繰返しになるが良い友人を持ったな」と言うと椿とカメリアに笑顔を向けた。椿はジンジャーの雰囲気がいつものような状態に戻ったことを確認するとカメリアに歩み寄った。

「カメリア!」
「んん…よくわからないけど、合格なのかな?」と二人で目を見合わせた。 
「あぁ、試してすまなかった どうにも今際の考えが気になってな」
「ジンジャー、どういうこと?」
「カメリアが、魔物の攻撃を受けるときに最初、後悔よりも達成感を感じていたというようなことを言っていたな?」
ジンジャーはカメリアにアイコンタクトを送った。
「はい!そう言いました」

185 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/27 20:38:35 ID:/tOaEZLVpt
「カメリア、その考えは残酷すぎたんだ もし本当に死んでお前の死体を見たら、椿はその呪いを受けて生きていかなくてはならない“間接的に殺した”と、そんなのあんまりじゃないか だから椿の一友人として、お前の本音を知りたくてな」とジンジャーが言い終わると、カメリアは得心が言ったように声をあげた。

「だから、お前が生きていて本当によかった もちろん!椿抜きにしても嬉しいけどな」と言うと豪快に笑った。
その声はとても大きく、洞窟の壁に反響して、壁を揺らした。椿たちも安堵すると、彼女の笑い声に感化されて、涙が出るほど笑った。

「はぁ… よしっ帰るぞ!」とジンジャーは膝を叩き立ち上がり、「そうだ、お前らにはまだまだ聞きたいことがあるから覚悟しておけよ 公務も滞ったからそれも手伝ってもらうぞ」と続けた。

椿たちはその言葉に驚き目を丸くしたが、仕方ないかと言うように目を見合わせると「はーい!」と元気よく返事をした。

まだ日は高く、秋の空を感じさせるような青空が広がっていた。

☆☆☆

186 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/27 20:39:28 ID:/tOaEZLVpt
【エピローグ】

ボクたちは激動の1日を過ごした。
まるで長い時間が経ったような気がするのに、半日しか経っていなかったことには非常に驚かされた。

この1日が経過したあと、ボクに送られたものは強烈な筋肉痛と熱だった。全身の筋肉が悲鳴を上げてベッドからも起き上がることもできずに、ジンジャーの励ましや、メイド長さんの少しトゲのある看病を受けながら1日を過ごした。

日が傾いた頃にカメリアも看病に来てくれて、向こうもなかなか激動だったと教えてくれた。どうやら昨日恩返しをしたいと話していたウキさんになにかがあったようだと言っていた。そして、ウキさんに一緒に会いに行こうと強引に誘われた、ボクは渋ったが圧力に負けて週末に行くことになった。里に行くということなので、花小泉さんに会いにいくこともできるので少し楽しみだ。

明日はどんな日になるのか、とても楽しみな今日この頃。

―完―

187 名前:カレル[age] 投稿日:2023/06/27 20:45:34 ID:/tOaEZLVpt
ここまで読んでいただきありがとうございます

まさかここまで長くなるなんて思ってもみませんでした。
約2ヶ月と月を跨ぐ更新でしたが、何とか完結できてほっとしています。
私はこの2か月で執筆形態を変えていて、移動中の電車やバスで書くことになった影響でスピードが速くなったと実感しています。あと、音楽を聴きながら書くといろいろとアイデアが浮かんできて、それもプラスに働きました。

本作は「変幻万化」の裏側を描いた作品になっています、詳しいことはネタバレになるので言えませんが、出てきた黒い魔物は共通して出ています。

本編は一通りの流れを書いたメモをもとに話を作ったのですが、書いているうちにあれも入れたい、これも入れたいといった脱線要素が湧水のように噴出してしまって5万字を越える作品になりました。ちなみに一番長い5話の【ぬくもりと約束】の部分はすべて脱線要素です。

あとコメントについて、ネガティブなコメントやそれに準ずるコメントはTwitterで受け取ります。論理性が破綻しているコメント以外は対応させていただきます。
https://twitter.com/kareru6

ここまで読んでいただきありがとうございます
次回の作品でお会いしましょう

188 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2023/06/28 22:44:54 ID:SV41vJthfk
おつかれさまでした
椿が友達になれる相手の可能性としてあるのかと思いました。
椿とカメリアの関係を軸に、周囲の助けや協力を得て……というバランスが良かったと思います。

二次創作はどうしても書き手と受け手に解釈のズレのようなが生じることはありますね……キャラクターや作品を貶めるようなことはしていないので、それで食い違ってしまうのはもう仕方ないですね

189 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2023/06/29 21:59:12 ID:Ftcg93tocg
>>188
コメントありがとうございます

大人キャラがどの程度物語に干渉すればいい塩梅になるのかはやはり重要ですね。
例えばライネさんやジンジャーなどの強者と行動すれば、ほとんどの苦戦が茶番と化してしまうので、ここぞ!という場面での登場なら面白くなるか、などを楽しんで考えていました。

食い違いを修正しようとすると、所謂レスバに発展しそうで怖いんですよね

190 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/06/29 22:00:43 ID:Ftcg93tocg
>>189
作者です
パソコンの不具合で名前が消えてしまいました。

191 名前:ペンギノン (あおちゃんSSの人) [age] 投稿日:2023/07/10 00:52:40 ID:1yGL963pl6
拝読しました! 取り敢えず、 >>39 がかわいすぎて萌死しそうです。椿ちゃんと感情がシンクロしてました。
『春の乙女たち』でも登場していたカメリアちゃん、椿ちゃんにとっても気の許せるお友達になったんだぁって思うと、何というか感慨深いです。
まさかのランプさんが推される側とは... >>85 さんも仰っていますが、なかなか新鮮な状況です。でもまぁ、あれほどの偉業を成し遂げた張本人だし、こういう事態も起こりうるかぁ...。
ほのぼのな日常風景で和む一方、戦闘シーンは一転して緊迫感を感じさせます。原作6巻の文化祭のときもそうですが、椿ちゃんの友達思いなところが現れていると感じます。
"龍殺し" ことロザリアさんも再登場し、過去作との繋がりもかなり複雑になってきましたね。まさかここまで大規模な話が構築されるとは思わなんだ...
... 長くなりましたが、一言でまとめると「椿ちゃんかわいい」ということで!!

192 名前:カレル[age] 投稿日:2023/07/11 20:52:15 ID:ktcX7Fzppn
>>191
コメントありがとうございます!

椿がカメリアのことを自信を持って「友達」と言えるようになるまでの物語ですね。今後も主役になる話を書く予定です。

街の人たちや里の人たちはランプの普段の行いなどをある程度知っているので、普通の反応になると思うので、人伝えにランプの話を聞いたカメリアは過剰な反応になってしまったという感じです。

再登場したロザリアですが、「プレゼント騒動」の起こった12月までは深く物語に関われないのが少し残念です。本作は大体10〜11月に起こった話なので…。

193 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2024/04/02 16:06:06 ID:RZIrH9GRDI
>>20
このssで椿は暗いところが苦手ということになっています。でも、ペンギノンさんのssのコメントで七巻の公園での背中合わせがお気に入りとコメントしています。あの場面はもう夜の暗い時間になっていますよ。あの場面が好きならどうして椿が暗いところが苦手だと解釈できたのですか?

194 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2024/04/02 19:28:45 ID:gFRSLaWnk2
大分前のssを掘り返してまでご苦労なこったな…
ここでの投稿をやめるきっかけはこのクレーマーのせいでもあるでしょ

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名前 age
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